【クレーム事例:018】店頭で受け入れられない要求を繰り返して、帰ってくれない

開封した商品の返品を求める顧客に対応

《事例概要》
使いかけの商品の返品を要求される ▶ 開封したら返品できないと言っても聞く耳を持たない ▶ 納得できないと言われ帰ってくれない

  • 夕方、スーパーマーケットに現れた申出人Xは80歳代の女性。背が少し曲がり、やっと歩いているといった様子。
  • サービスカウンターの店員Aに封をきった筑前煮のパックを持って話しかけます。
  • 声が小さく聞き取りづらいが、商品を返品したい。代金を払い戻して欲しい。ということ。
  • 応対した店員Aは困ってしまう。封を切った商品の返品は無理だ。常識的に。
  • 「お客様、もう封をお切りになっているので、返品はお受けしかねます。」
  • 申出人Xは構わず言い続ける。「そういうことじゃない。どうもこうも食べられたものではない。返品するので代金を返してもらわなきゃ困る。」
  • 「お客様、もうしわけありませんが、一旦開封された商品を返品することはできないんです。」
  • 「それじゃあ、これを食べろというのかい。そりゃあひどい。無理なものは無理だもの。」
  • 「そうではありません。お口に合わなければ無理にお食べになる必要はありません。しかし、一旦開封された状態での返品はお受けできないのです。」
  • 「じゃあ、食べらないないものに金だけ払えということなのかい。あんたは。」
  • 「そういうことではありません。……」
  • このような問答が10分以上続きます。店員Aは困ってしまいます。商品の代金は400円。安いものです。このまま、ずっと押し問答をして、それに費やす時間あたりの人件費を考えれば、返金に応じた方がいいのではないか?でも、その話は社内で通用するのか?自信が持てません。
  • 「お客様、少々お待ちください。」と断り、店員Aは事務室にいるチーフBに相談に行きます。しかし、チーフBの反応は冷たいものでした。
  • 「Aさん、よく考えて下さい。お客様の要求されていることは妥当なの?」
  • 「いえ、妥当ではありません。」
  • 「なのに、Aさんはその要求に応えてその場をやり過ごそうというの?」
  • 「いえ、そういうわけではありませんが……」
  • 「Aさんも、分かっていると思うけど、不当な要求はカスハラだよ。それに応じるのが一番いけないことなんだよ。他のお客様と不公平になることをしたら駄目でしょ。ちゃんとお断りして下さい。当たり前でしょ。こんなことは一々相談しなくても自分で判断して行動できるようになって下さい。」
  • 「そうなんですけど、いくらお話してもお引き取りいただけないんです。」
  • 「そこをなんとかするのがあなたの仕事でしょう。しっかりして下さい。」
  • 店員AはチーフBに相談したことを後悔します。すごすごと事務室を出て、チーフBと申出人Xの両方に軽い怒りに近い気持ちを感じながら、またそういう気持ちになってしまう自分を責めながら、申出人Xが待つサービスカウンターに戻っていきます。

《適切な対応》
「不当な要求」は脇に置く ▶ 共感できる箇所を見つけて共感する ▶ 事実関係を見極める ▶ 申出人の要求に囚われず、会社として可能な適切な対応を考えて提案する

「不当な要求」は脇に置く

  • 開封して一部を食べた商品が気に入らないからと返品できるはずがありません。申出人Xの要求を聞いた途端に店員Aは「無理!」と思っています。確かに「無理!」なのですが、そのまま「無理な要求をされた」⇒「お断りしなくては!」に気持ちが直結していて、「どうやったら納得してもらえるか?」で頭がいっぱいになっています。
  • そうなると「傾聴」どころではありません。店員Aは「開封したものは返品できない」というルールを主張しているだけになります。【実践編】クレーム対応 即効テクニック に記載した手順のフロー図を確認していただくと分かりますが、「Stage③:傾聴に徹する」と「Stage⑤:事実を確認する」が欠落しています。この工程が欠落すると「Stage⑦:対応を決定する」の幅が狭まってしまいます。

<参考>【実践編】クレーム対応 即効テクニック

  • なにかを「要求」されると、それに反応しようと思ってしまうものですが、明らかに「不当な要求」であってもすぐに拒絶せず、一旦脇に置きます。どんな「不当な要求」であったとしても、申出人にとっては、そういう要求をしなければならないと思う事情があったのです。理不尽な要求であればあるほど、その事情は分かりづらいものです。

共感できる箇所を見つけて共感する

  • 最初はとにかく「傾聴」に徹します。聴きたいことは、申出人がどんな体験をしてどんな気持ちになっているかです。パッケージにとても美味しそうな筑前煮の写真が印刷されていたので、1年振りに実家に帰ってくる息子に食べさせようと思って買ったのだけど、芋が固すぎて、息子に不味いと言われてガッカリした。という話かも知れません。そのガッカリには共感できます。
  • 要求には応えられないけれど、ガッカリには共感すれば良いのです。共感すると要求に応えなければならないと思って、共感してはいけないと思われがちですが、まったく心配無用です。80歳代の女性の息子さんなら50歳代ぐらいでしょう。きっと遠くにお住まいで、滅多に実家には戻らないのかも知れません。申出人の気持ちに共感できることはどんどん正直に共感して良いのです。しかし、お詫びを急ぐ必要はありません。お詫びすべきかどうかは別問題。まして、要求に応えるべきかどうかも別問題です。
  • 「共感」することで申出人がどんどんお話をして下います。自然に「傾聴」が深まります。そして、次の工程に進むための十分な情報を得ることができるのです。

事実関係を見極める

  • 傾聴に徹していると、意外なことが分かるものです。申出人はどんな調理をしたのでしょう。パッケージに記載さてた通りの手順を踏んでいないのかも知れません。電子レンジでの加熱時間が短かったのかも知れません。息子さんは結構短気で、高齢の母親である申出人Xを怒鳴りつけているのかも知れません。息子さんが「そんなモノ食えるか!返品してこい!」と怒鳴り、息子さんが怖くて息子さんの言われた通りにしなくちゃいけないと思い込んで、サービスカウンターで粘っているのかも知れません。
  • 調理の方法が間違っていたのなら、それなりの対応。息子さんが怖くて仕方がないのなら、それなり対応があります。事実関係を見極めれば対応を誤りません。

申出人の要求に囚われず、会社として可能な適切な対応を考えて提案する

  • 申出人が「不当な要求」をすると、それは「カスタマーハラスメント」に決まり!と考えてしまう傾向があります。「カスタマーハラスメント」への適切な対応は「毅然とした拒否」のみ!と考えてしまうのかも知れません。でも、これは単純すぎます。お客様との関係がとてもギスギスしたものになってしまいます。チーフBがまさにその発想です。
  • チーフBにしてみれば、「拒否」一択。Aさん、ちゃんと断ってきてくださいよ。そういうのはあなたの仕事でしょ。という気持ちなのでしょう。チーフBがそのような考えでは、店員Aは困るばかりです。店員Aのスキルも向上しませんし、そんなことばかりしていると顧客対応が冷たいお店という印象が広まってしまいます。
  • 共感し傾聴し事実関係を見極めると、柔軟な解決案が浮かびます。申出人Xが料理の手順を間違えていた場合は、料理の手順を改めて説明して残った筑前煮を美味しく食べて貰うというサポートが有効です。申出人が電子レンジを使うことが苦手な場合は、電子レンジを使わなくても良い手順や、そういった別の商品をお勧めすることができます。一方、息子さんが怖いという話であれば、話は全く別の方向に向かいます。その方向の中で出来る限りのことを柔軟に考えて、提案すれば良いのです。
  • 申出人との折衝で行き詰まるケースは「拒絶」で終わる場合です。「不当な要求」には応えられません。それでおしまいだと、申出人は「不当な要求」をした自分は悪いのだということになり、理屈がどうであれ心情的に受け入れがたい状態になります。思いつく限りの理屈、技を使って自分の要求を通そうとします。
  • 「不当な要求」にはお応えできません。でも、「~のようなことは出来ます」という対応案を提示することで、申出人として了解する段取りが整うのです。その「~のようなこと」が何であるのかは、十分な情報が無ければ考え付くものではありません。そのための傾聴。傾聴のための共感です。このような柔軟な対応が、申出人には心のこもった対応と感じられるのです。
  • カスタマーハラスメントへの対応態勢が整っている企業であれば、申出人と話をする折衝担当者が行き詰まった場合の相談体制が用意されています。このケースではチーフBが店員Aにとっての相談対応者となるのでしょう。その肝心の相談対応者のスキルが未熟であると、本ケースのように店員Aが追い詰められてしまいます。