【クレーム事例:016】配達先が分からないので商品を持ち帰ってしまう

チキンナゲット配達の図

《事例概要》
お客様の指定したお届け先が分からない ▶ 商品を持ち帰る ▶ その際の対応が悪いと叱られる

※【クレーム事例:015】の話が続きます。まだお読みでない方は、そちらからお読み下さい。

<参考>【クレーム事例:015】テイクアウトしたチキンナゲットが無い

  • 販売員Aは納得できなない気持ちを抑えてチキンナゲットを申出人Xが指定する住所に届けるために、配達用バイクで店を出ます。
  • 申出人Xの住所がナビで特定できません。Aは近くまで行って申出人Xに電話をします。「今、ドン・キホーテの前まで来ているのですが、X様のご自宅が見つかりません。目印を教えていただけますか?」「もたもたしてんじゃねえよ。裏だよ。」「はい?」「裏だって言ってんだろう!」「裏というのは、ドン・キホーテの裏ということですか?」「当たり前だ!お前馬鹿か?早く持って来い!」と一方的に電話を切られます。
  • Aは、戸惑いながらドン・キホーテの周りをバイクで走らせるのですが、どこがXの自宅かどうしても分かりません。表札を見て回るのですがXの名前が書かれている表札が見つかりません。仕方がなく、もう一度Xに電話をします。
  • 「申し訳ありません。ご自宅の目印になるものを教えていただけますか?」「まだ、もたもたしてんのか?どんだけ待たせるんだ?すぐだろう。裏だって言ったろう。」「ええ、で裏を探しているのですが、見つかりません、一軒家でいらっしゃいますか?アパートでいらっしゃいますか?」「アパートなわけないだろう。馬鹿にしてんのか?ちゃんとした戸建てだ。お前、アパート住まいを馬鹿にしてんのか?」「そういうことでは……」「ふざけんじゃないよ。早く届けろよ。馬鹿かお前は!」「目印をおっしゃっていただかないと、お届けできません。」「住所を言っているのに届けないって言うのか?」「そういうわけでは……」「じゃあ早く持って来い!」と電話を切られます。
  • Aは途方に暮れます。もう怖くて電話が出来ません。怒鳴られるだけです。とは言えXの自宅が分かりません。仕方なく店に戻ります。
  • チーフBの「お疲れさん!」と言う爽やかな声に迎えられたAですが、届けられなかったと伝えるとチーフBは途端に困った顔して「え~、だったらますます怒らせちゃうじゃない。どうするの?店長にも話してんのに……」と責めるような目でAを見ます。チーフBは販売員Aが配達に出ている間に、店長Cに経緯を報告していて、「私の指示でAに配達させたのでもう大丈夫です。」と言っていたのです。
  • チーフBは店長Cに経緯を報告します。店頭Cが少し考えて、「よし分かった俺がお客さんと話をつける。」と言います。その途端、申出人Xから店に電話が入ります。電話に出たスタッフが電話を保留にして言います。「お客様とても怒っています。店長を出せ!と言っています。
  • 店長Cが電話に出て、平身低頭のお詫びをして何とか収めて電話を切ります。
  • 店長Cは振り返るなり、販売員Aに向かって言います。「君の態度が失礼だって、X様はとても怒っていたよ。お客様に、アパート住まいか?って聞いたの?説明が悪いから届けられないって言ったの?すぐに届けるって言いながら店に戻ってきちゃったの?お客様に一旦店に戻るって言わなかったの?社員教員がなっていないって叱られたよ。ナゲットの問題じゃないんだって。君、本当にアパート住まいだとか言ったの?」
  • 販売員Aは、店長Cの言葉にびっくりして言葉を失います。

《適切な対応》
悪質なクレーマーの常套手段に惑わされない ▶ クレーマーを怖がらない ▶ 事実を歪めず適切に対応する

「クレーマーの常套手段:余裕を奪う」に惑わされない

  • 申出人Xはことさらに乱暴な言葉を使います。「もたもたしてんじゃねえよ。」「馬鹿かお前は!」……親にも言われたことのない酷い言いようです。これらは「余裕を奪う」というクレーマーの常套手段なのでその手に乗ってはいけません。夏の盛りに蝉が鳴いてる程度に流せばよいのです。間違っても「すみません」とか「申し訳ありません」とか「あの……」とか「え~と……」とか、慌てた素振りを見せてはいけません。相手に「効果あり」という不適切なメッセージを送ることになり、乱暴な言いようがエスカレートしてしまいます。「そのような言葉に対し動揺している様子を見せると効果ありと思わせてしまい、エスカレートしてしまいます。
  • では、どうすれば良いのか?実質的に無視すれば良いのですが、相手が何かを言って、こちらが黙って沈黙していると形式的な無視が際立って、それを失礼だと非難されかねません。形式的に無視しないために、何かを話せば良いのです。あたかも相手の言った言葉に答えているかのタイミングで別のことを話すのです。できれば、何かの簡単な答えを要求をすると良いのです。なにかの要求をされると、人は条件反射的に対応しようとしてしまう傾向があるからです。簡単であれば、うっかり答えてしまいます。お菓子を差し出すと、うっかり手を出してしまう子どものようなものです。
  • 「もたもたしてんじゃねえよ。」……「はあ、で、X様のご自宅はドン・キホーテの南側になりますか?」「東西南北で聞かれてもわからねえよ。」「何階建ての建物ですか?」「2階建てだよ。」……人は不思議なもので、質問している側と回答する側では、質問している側が優位な雰囲気になるのです。これで、暴言を吐いて余裕を奪うという常套手段は空振りになります。クレーマーは特定の常套手段の空振りが続くと、同じ手を繰り返さなくなります。

<参考> 【基礎編】クレーマーの常套手段/Categ.①:余裕を奪う

<参考> 【導入編】クレーマー対応 3つの心得

「クレーマーの常套手段:不整合を突く」に惑わされない

  • 悪質なクレーマーの常套手段の中に、ターゲットとした会社内に不協和音を生んで足並みを乱すというものがあります。具体的に、クレーマーは会社側の複数の人と話をして、それを歪めて「あの人がこう言った」「この人がこう言った」と言って、あたかも会社側の誰かがとんでもないことをしているかに演出し、会社内の不信感を醸成します。自分たちの部署は問題ないのに、あの部署が駄目なことしたために、自分たちは迷惑をこうむっているのではないか?私は問題のない対応をしているのに、あの人がとんでもないことをして問題を大きくしたのではないか?申出人は本当は悪くないのではないか?と、会社内での疑心暗鬼を引き出せれば、このクレーマーの常套手段は大成功ということになります。
  • まず、この常套手段を使われている可能性があることを自覚することです。多くの場合、会社の仲間はとんでもないことをしません。みんな真面目にちゃんと仕事をしています。クレーマーが何を言おうと、それは会社側の結束を崩す罠である可能性があります。クレーマーの口車を信じるのではなく、会社の仲間を信じることです。
  • しかし、この常套手段が往々にして成功するのです。なぜ成功してしまうかというと、多くの人が「クレーマー」に攻撃されることが怖いからです。クレーマーの攻撃が自分ではなく他の人に向かってもらうと救われる気がするからです。怒り狂う「クレーマー」に自分が立ち向かうのが怖い。もし「クレーマ」が一方的に悪いのであれば、どんなに怖くても立ち向かわなければならない。でも、会社側のどこかの部署、自分以外の誰かが悪いのであれば、社内の誰かを悪者にしてクレーマーと真正面から対峙しなくてもすむ……
  • ヘタレなんですが、人は本当に怖いものに対してはヘタレでも仕方がないのです。本当に怖いのですから。このヘタレから脱する方法はただ一つ。クレーマーを怖がらないことです。このサイトの、導入編の3つの心得を肚に落とせば怖さが薄れます。基礎編の常套手段を知っておけば罠にはまりません。実践編の即効テクニックを使えばクレーマーをコントロールできるようになります。理論編でクレーム・クレーマーについて構造的に理解すれば、もうクレーマーは怖くなくなります。

<参考> 【基礎編】クレーマーの常套手段/Categ.②:不整合を突く

<参考> 【導入編】クレーマー対応 3つの心得

クレーマー対応の目的はクレーマーをなだめることではない

  • 「クレーマー対応」の目的を「クレーマーがクレームを言わない状態にすること」すなわち「クレーマーをなだめること」だと思っている方も少なくありません。しかしそれは大きな間違いです。ここから全ての間違いは生まれていると言っても過言ではありません。下水が溢れ、汚水が地表に噴出している。これを止めなければ……。という感覚でクレーム対応をすることが最も危険なことなのです。
  • 苦情・クレームを含めた申出人からの「申出」は「汚水」ではありません。会社にとって、宝物かも知れませんし、毒なのかも知れません。相手次第なので一概には言えません。いろいろな要素が混ざっている場合が多いのです。いずれにしても苦情・クレームを含めた申出への対応の目的は、適切に対応するだけです。過剰な要求はお断りし、合理的な要求に対しては出来る限りの対応をする。それが適切に対応するということです。
  • 「申出」を受けること歓迎し、どんどん受けて、どんどん適切に対応してその実績を積み上げることで、会社は成長するのです。
  • 今回の事例で良くないことは、事実を踏まえた適切な対応をせずに、クレームを言う申出人の言いなりになってなだめようとしていることです。スーパーマーケットのお菓子売り場の前で、お菓子を買って欲しくて店内に響き渡るように泣き叫ぶ子どもを想像してみて下さい。他のお客様やお店に迷惑を掛けることを気にして、お母さんが「今回だけは」と言ってお菓子を買い与えてしまうとどうなるのでしょう?味をしめた子どもは毎回お菓子売り場の前で泣き叫びます。
  • 今回の事例の申出人Xは常習的なクレーマーである可能性があります。どこか別の店で同じようなことをして成功して味をしめている可能性があります。クレーマの常套手段の使い方も慣れているようです。
  • 申出人Xは過剰な要求をしてそれを通すことで満足感を得たいのです。金銭的な利益を得て気持ちよくなり、それなりの謝罪を受けて気持ちよくなり、今後にむけて特別なお客様としての扱いを受けて気持ちよくなろうとしているのです。そして、そのために繰り出されたクレーマーの常套手段に、販売員AもチーフBも店長Cもはまっているようです。

<参考> 【理論編】クレームの構造的理解/第6講:クレーマー心理

事実を歪めずに適切な対応を取る

  • 今回の事例では、誰がどう見ても申出人Xの自宅への案内が不適切です。これが事実です。この事実に基づいて会社の全員が一体となった行動をすべきでした。
  • まず、販売員Aは、電話で何度怒鳴られようが、「X様のご説明ではどうしてもご自宅を見つけることができません。もう30分も探しております。これをこのまま続けることはできませんので、残念ですが私は店に戻ります。」と言って店に戻れば良いのです。申出人Xが怒鳴るので怖くなって電話ができない。という状態は申出人Xの思う壺です。いいんです。礼儀正しく、慇懃無礼なほどに落ち着いて、言い切れば良いのです。
  • 店に戻った販売員Aの話を聞いたチーフBは、困った顔などする必要はないのです。販売員Aと申出人Xのやり取りを聞けば、申出人Xは悪質なクレーマーに確定です。むしろほっとすべきところです。実は、悪質なクレーマーへの対応は善良なお客様のご不満への対応より簡単なのです。楽とすら言えます。
  • チーフBは意気揚々として、申出人Xに逆クレームの電話をすれば良いのです。先方から電話を受ける前にこちらから電話をするのです。「うちの販売員をわざわざご自宅に向かわせているのに、ちゃんとご自宅の場所を説明しないとはひどいじゃないか!」ということを、ことさらに、冷静に、礼儀正しく、ゆっくりと、慇懃無礼に言って、申出人をイラつかせればいいです。
  • 申出人は異常に激高するでしょう。「上司を出せ!」と怒鳴るでしょう。店長に代わる必要はありません。「消費者センターに訴えるぞ!」と怒鳴るでしょう。「それは残念ですが、私どもがお止めするものではありません。」と言えば良いのです。「ネットに拡散するぞ!」とも怒鳴るでしょう。同じことです。「それは残念ですが、私どもがお止めするものではありません。」の一言で十分です。
  • そのうえで、「さきほど、店内のビデオカメラを確認させていただきましたが、ご指摘の商品は店内のカウンターでX様にお渡ししております。X様はどこで商品がないとお気づきになったのですか?ご自宅でお気づきになったのですか?でしたら、私どもの店の扉を出られてから、ご自宅に着くまでの間になくなったということになります。X様、お車で来られていました?自転車ですか?徒歩ですか?X様が歩かれたルートを今から確認させようと思いますがどのルートをたどられましたか?私どもとしても、X様が折角お買い求め下さった商品を召し上がっていただけないのはとても残念でなりません。なんとか見つけたいと思います。」と畳みかけます。
  • ほぼ間違いなく、申出人Xは「もう、いい!」と言って電話を切ります。そして、2度とその店で同じ手を使うことは無くなります。

<参考> 【理論編】クレームの構造的理解/第7講:クレーマーとの交渉

クレーマーを怖がって事実を歪めると事態は悪化する

  • よく「大人の対応」と言う人がいます。事実を歪めた方が穏便に事がおさまるという意味で使われる言葉なのでしょうが、私の知る限り「大人の対応」=「ヘタレの対応」です。チーフBは申出人Xのクレームに自分が対応するのが怖かったので、事実を歪めた対応を販売員Aに押し付けてこじらせたのです。
  • チーフBは、販売員Aがチキンナゲットを申出人Xの自宅に届けてお詫びをすれば、申出人Xをなだめることができると思ったのに、なだめるどころか怒らせたままで店に帰ってきた販売員Aを見てガッカリしています。
  • チーフBからその報告を受けた店長Cは「俺が話をつける!」と宣言しますが、部下がゴチャゴチャにしたクレーム対応を「店長」という肩書で解決できると思ったのでしょうか?とんでもありません。「店長」という肩書が「総理大臣」とか「超有名人」のようなブランドがあるなら、そういう人と話をして貰えただけで嬉しいということも無くはありませんが、ハンバーガーショップの「店長」にそんなブランドはありません。部下が困っているのだから俺がなんとかする。という責任感とリーダーシップから出た言葉だと理解できるのですが、事実確認も十分でない、対応策も決まっていない段階で、無防備に組織の責任者が申出人と折衝するのはやり直しが効かなくなるので危険です。
  • 案の定、店長は申出人Xの主張を鵜呑みにして、電話を切るなり販売員Aへの叱責モードです。販売員Aの口惜しさは半端ではありません。店の最高責任者である店長が申出人Xと合意したことは、あとで覆すことが難しくなりました。