【クレーム事例:015】テイクアウトしたチキンナゲットが無い

監視カメラ付きカウンターの図

《事例概要》
テイクアウト商品に不足があったとの苦情 ▶ 不足がなかったことが確認できたが面倒を避けるために申出人の要望を受け入れてしまう

  • 申出人Xはハンバーガーショップに来店して、ハンバーガー二つ、ポテト一つ、ドリンク一つ、チキンナゲット一つをテイクアウトで注文して、その場で料金を払って帰られました。
  • 1時間後に店に申出人Xから電話がかかります。「テイクアウトした袋の中にチキンナゲットが入っていない。」とのこと。電話で応対した販売員Aは、お詫びをしますが、Aが申出人Xに販売してたの店頭での対応を思い出します。Aにはチキンナゲットを申出人Xの目の前で袋に入れて商品内容を確認した記憶があります。ただ、記憶なので絶対とは言えません。
  • 販売員Aは申出人Xに「一旦、店の記録を確認させていただきます。」と言うと、申出人Xは激高します。「無い物は無いんだ。俺が噓を言っているとでも言うのか?お前の名前はなんだ?上司を出せ!」と怒鳴られます。
  • 販売員Aは電話を保留にして、チーフBに相談します。その際、店の防犯カメラを確認します。防犯カメラには確かにチキンナゲットを袋に入れてXに渡すAの姿が映っています。
  • 販売員AはチーフBに言います。「お客様の勘違いですね。でも、お客様がとても怒っています。上司に代われとおっしゃっています。」
  • チーフBは言います。「上司に代われと言われてすぐに代わっていてはいけないよ。でも、お客様すごく怒っていて、対応が大変なんでしょ。これで、お客様の勘違いですなんて言えば嫌な思いをすることになるよ。チキンナゲット一箱ぐらい大したお金じゃない。今回はお客様の言うとおりという事にしていいから、代金を返金するか、ナゲットをお渡しするかどちらかならいいよ。電話で要望を聞いて、希望通りにしてあげて。」
  • 販売員Aは再び申出人Xとの電話をつなげ、改めてお詫びし、代金の返金か商品のお渡しを提案します。
  • 申出人Xは、電話を保留にして待たせた時間が長いと文句を言い、上司に代わらないことに文句を言って販売員Aをしばらく怒鳴り続けたうえで、「そっちが悪いんだから、すぐに家までナゲットを届けろ!」と言います。横で電話の様子を聞いていたチーフBが頷くので、販売員Aは申出を了解し、住所を確認します。距離的に配達用バイクで15分程度の距離です。
  • 「すぐに持って来い!」という言葉で電話を切られます。販売員Aは何も悪い事をしていないのに、散々怒鳴られたあげく、申出人Xの自宅にナゲット一つを届けることに納得できない気持ちが抑えられません。しかし、チーフBは「大変だけど、こうするのが一番楽なんだよ。Aさんよろしくね。Aさんが抜けた分、他に人にカバーしてもらうからね。」と言います。Aは、チーフBに「ありがとうございます。」と言い、周りのスタッフに「すみません。よろしくお願いします。」と頭を下げて、自分が悪いことをしたかのような空気のなかで、店を出て申出人Xの自宅に向かいます。

《適切な対応》
どんなに申出人が激高していても気にしない ▶ 確認した事実を踏まえた対応に徹する ▶ 折衝担当者を孤立させない

申出人が激高しても動揺しない

  • 見知らぬ人から怒鳴りつけられるのは怖いものです。まして「お客様は神様です」とか「顧客満足度の向上が企業にとって一番大切なことです」とか「ご不満を持ったお客様に満足していただければとても良いお客様になります」とか言われている昨今です。お客様から怒鳴られれば、何か自分に非があるのではないかと振り返ってしまい、この怒鳴っているお客様を笑顔にしなくてはいけないと思ってしまいます。動物的に、条件反射的に、緊張して動揺するのは仕方がありません。
  • しかし、弱った動物に猛獣が襲いかかるように、動揺しているあなたは、悪質なクレーマーの格好の餌食になってしまいます。
  • まず、動揺しないメンタルを身につけることが有効です。まず、自分は役を演じているだけだと思うことです。ハンバーガーショップで接客をしているのであれば、勤務時間中にそういう役を演じているだけだと割り切ります。お客様が怒鳴っても、それは私に怒鳴っているのではなく、私が演じている役に怒鳴っているのだと思えば、動揺することがなくなります。そういうドラマを見ていると思えば、さて、怒鳴られたハンバーガーショップの店員が行うベストな対応は何だろうと考えます。テレビでドラマを見ているあなたが動揺することはありません。
  • 販売員Aは「一旦、店の記録を確認させていただきます。」と言っています。良い対応です。申出人Xは激高しますが、それは良い対応が申出人Xにとって都合が悪いからです。気にすることはありません。

<参考> 【導入編】クレーマー対応の3つの心得

事実確認のための時間を十分に確保し、確認した事実から目を背けない

  • 事実確認に十分な時間を使うことは大切なことです。しかし、悪質なクレーマーは事実確認の時間を取らせないようにします。それに負けずに事実確認のための時間を取りに行くのですが、申出人の状況を確認したうえで時間的な余裕があるかどうかで柔軟に対応します。
  • この事例では、チキンナゲットを提供したか否かの確認で、ナゲットの提供が遅れたら申出人が餓死するということではないので一刻を争うものではありません。ですから、この場合は一旦電話を切って、折り返しの電話を約束する方がよかったと言えます。
  • そして、事実確認にはテクニックがあります。こうあって欲しいという願いを捨てます。自分にとって最悪の事態を覚悟します。周りの人にも肚をくくらせます。しかし、この事例でのチーフBの対応は良くありません。おかしな方向に事実を歪めています。申出人Xが激高しているので、真正面から折衝するのが怖かったのでしょう。気持ちは分かりますが、その姿勢は事態をこじらせます。怒鳴っている申出人は動揺を誘うという常套手段を使っているだけです。その技にはまって、確認した事実から目を背けていては、折衝の成り行きが思いやられます。
  • この事例は、事実確認を踏まえて、その事実を伝えて申出人からの理不尽な要求には一切応えなければよかったのです。とても単純でシンプルなクレーム対応となったはずです。

<参考> 【実践編】即効テクニック/Stage⑥:事実を確認する

<参考> 【基礎編】クレーマーの常套手段/Categ.①:余裕を奪う

折衝担当者を皆で守る

  • この事例で良くない点は、チーフBや職場の仲間が販売員Aに申出人Xとの折衝を押し付けていることです。
  • 「上司に代われ」と申出人が言ってもすぐに代わってはいけないのは、申出人の理不尽な要求を成功させてしまうからですが、一人の折衝担当者に折衝のストレスを全部負わせるのはとても良くないことです。申出人の理不尽な要求に対しては職場のみんなで一丸となって立ち向かうのは当然です。
  • まず、ナゲットはちゃんとお渡ししている。という事実を伝えると申出人が怒鳴り始めてそれを受ける販売員Aの精神的なストレスが大き過ぎると考えられるので、事実確認後の折り返し電話を販売員A以外の同僚もしくはチーフBが掛ければ良いのです。
  • この事例のように、結果的にナゲットを届けることになったなら、販売員Aではなない別の同僚もしくはチーフBが届ければよいのです。それなのに、この事例では販売員Aに訪問させます。あろうことか、販売員Aに申出人X宅に向かうために職場を一時的に離れることに対して、チーフBや同僚に引け目を感じさせています。
  • 理不尽なクレーマーへの対応など、なければそれに越したことはありませんが、相手次第のことなのでそのようなクレーマーに絡まれてしまうことがあります。そんな時に、折衝担当者を職場内で孤立させるのはとはとても危険なことなのです。

不適切な行動をする申出人を気持よくさせない

  • 今回の事例は、常習的な悪質なクレーマーである可能性があります。受け取った商品を受け取っていないと言い張っている事実が判明した時点で、申出人Xがかなり悪質なクレーマであると判断して構いません。
  • 大切なお客様には満足を感じていただくように努力をしますが、悪質なクレーマーには「些細な満足も与えない」ように注意深く振る舞います。その際、感情的な態度を取ればそれが隙になるので、ことさらに「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」接します。慇懃無礼に近い対応を取って、悪質なクレーマーをイライラさせます。
  • そのような対応をすると申出人は、ますます激高します。罵詈雑言は吐き散らします。それで良いのです。むしろそれが良いのです。悪質なクレーマーが行うひどい行動をしっかりと記録に残しておけば良いのです。そういう記録が積み上がれば積み上がるほど、悪質なクレーマーは不利な立場に追い込まれます。
  • 最終的な目標は、悪質なクレーマーとの合意ではありません。折衝がどれほど暗礁に乗り上げようと、第三者の裁定にかけた場合に第三者が私たちを支持してくれれば良いのです。そのための準備をしていると思えば、悪質なクレーマーの罵詈雑言などむしろありがたくなってきます。
  • そのような姿勢を貫いていれば、悪質なクレーマーは要求を諦めます。今回の事例のような常習的なクレーマーであれば、もっとクレーマーへの対応が及び腰な隙のある別の会社を相手にした方がおいしいというお話になります。
  • もちろん、美しい解決は、悪質なクレーマーが善良な顧客に変わることですが、常習的なクレーマーは過去に甘い汁を吸った成功体験があるので善良な顧客に変わることはあまり期待できません。

<参考> 【理論編】クレームの構造的理解/第7講:クレーマーとの交渉

<参考> 【理論編】クレームの構造的理解/第8講:クレーマーを動かす