【クレーム事例:012】マンション駐車場利用ルール違反についての管理組合の対応に居住者からクレーム

マンション脇に駐車する車

《事例概要》
マンション駐車場の利用ルール違反 ▶ 違反者への過剰な制裁要求 ▶ マンション管理組合の対応への不満

  • マンションの管理組合に向けたクレームの事例です。「顧客」でない「居住者」からのクレームは、その人とのビジネス(付き合い)をしない形で関係を断ち切るという選択肢が許されないので、通常のビジネス上のクレーマー対応にはない難しさがあります。
  • ある日、居住者X(申出人)が写真を持って管理人室の管理人Aに申出をします。臨時駐車スペースのルールを守らない居住者がいる。その証拠写真を撮った。ちゃんとルールを守らせるように。他のマンションでは罰金を徴収している。このマンションでもそうするように。との強い要望です。
  • 管理人Aは、申出内容をマンション管理組合の理事長Bに説明し、2週間後の理事会で対応が検討されます。
  • そのマンションは敷地内駐車場が十分ではなく、敷地外に駐車場を確保している居住者もいます。そこで来客は緊急の場合に備えて臨時駐車スペースを準備していますが、常用してはいけないとしています。今回のケースでは、2週間ほぼ毎日、臨時駐車スペースに駐車していた居住者Zの行為を居住者Xが咎めたものです。
  • 居住者Zに事情を聴くと、若いご夫婦の世帯で、出産を間近に控えていているが、敷地外の駐車場は徒歩で10分程度の距離にあり、緊急な対応に不安があったので敷地内の臨時駐車スペースにしばらく連日車を駐車させていたとのこと。今月末にはこの状況は解消されるとのことでした。
  • 理事会では居住者Zの事情を理解し、出産が終るまで、臨時駐車スペースを連日使うことを認め、その判断結果を申出人Xに伝えます。
  • しかし、申出人Xは納得しません。管理規約の細則ルールには「臨時駐車スペースを常用することは認められない。」と記載されている。細則ルール違反を勝手に認める権限は理事会にはない。細則ルールの変更をするのであれば、速やかに臨時総会を開いて全ての居住者に説明をして承認を得ろ。居住者Zの連日の駐車をみとめるのはその後だ。それができないということは、理事会が機能していないということだ。問題はさらに大きい。敷地内の土地は共有財産であり、それが不法に利用されるということは財産権の侵害だ。相応の補償が必要だ。だれが補償するのか?市中の有料駐車場は少なく見積もっても1時間500円だ。毎日10時間30日駐車すれば、15万円になる。不法な駐車をしたものがそれを払うのか?理事会がそれを払うのか?と主張します。
  • 理事長Bは困惑します。臨時総会を開くとなると、その前に理事会を開いて決議することになります。理事の多くは平日は仕事を持っており、理事会を急いで開いても次の土日になります。そこから臨時総会を開くとなると、総会の2週間前に居住者に通知しなければなりません。総会を開いたとしても、来月になってしまいそうです。そうこうしているうちに居住者Zの家では出産を迎えます。結局、居住者Zにとって必要な時の駐車を認めることができなくなります。
  • その対応はいかにも冷たい。柔軟ではありません。まして、申出人Xが要求する不法駐車に係る補償など考えられません。しかし、申出人Xは過剰と思える主張を取り下げる様子はなく早く納得してもらわないと、どんどんエスカレートしそうです。
  • 週末に臨時の理事会を開いて、理事に集まってもらいますが、どの理事も困ってしまいます。柔軟な対応で良いと理事の多数は思っているのですが、ルールを変更する権限は理事会にはないと言われればそれまでです。申出人Xを納得させる道筋が見えません。

《適切な対応》
印象を整える ▶ 要求を確認 ▶ 要求の合理性を判断 ▶ 対応決定 ▶ 申出人の面子を潰さずに円満解決 

申出人からなめられない。申出人を怖がらない。申出人を好きになる。

  • マンションの居住者がクレーマーになって管理組合を攻撃することは珍しくありません。このようなクレーム対応は、通常のビジネス上のクレーム対応とは違う制約があって難しくなることがあります。その制約とは「縁を切れない」という制約です。
  • 「縁が切れない」という制約は恐ろしいことで、喧嘩別れが出来ないということです。ですから、最後は必ず円満に終わらせることを目指します。結果的に喧嘩別れにしてしまうと、根に持たれ、永遠に執拗に絡まれてしまう危険があります。10年でも、20年でも、どちらかが転居するか死ぬまで絡まれて攻撃を受け続ける人生など、想像するだけで恐ろしいです。
  • 最終的に折衝を円満に終わらせるためには、「【実践編】即効テクニック/Stage②第一印象を整える」が役に立ちます。まず、なめられづらい印象を与えます。「冷静で挑発に乗らない」「脅しても動じない・怯えない」「理路整然と話をする」「丁寧でマナーに隙がない」と言う印象を与えるように演じます。
  • そしし、申出人を怖がらずに好きになることが大切です。申出人は折衝担当者が腹の立つことを言います。それに腹を立ててしまえば喧嘩になってしまいます。喧嘩にならないように自制するのは難しいので、相手を好きになってしまうことで自制を効かせます。無理でもなんでも、申込人のことが好きだと思い込みます。

要求内容を確認し、その合理性を判断する

  • 要求内容を確認して、その前提となる不満、その前提となるメリットをたどり、要求内容の合理性を判断するのは通常のクレーム対応と同じです。
  • 要求内容は、「細則ルールの変更のための総会を開きルール変更の決議をしてから居住者Zの恒常的な駐車を認めろ。ルール変更の決議前の駐車はマンション資産の不法な利用であるから、1時間500円で算出した補償をさせろ。不法な駐車を理事会が認めたのなら、理事会が補填しろ。」です。
  • 改めて「【理論編】構造的理解/第2講:不満の構造」を参考にして下さい。この要求の前提となる不満は何なのでしょう?合理的な不満はありません。居住者Zの駐車によって、申出人Xが失ったメリットがないからです。敢えて言えば、マンションの細則ルールを理事会の恣意的な判断で歪めることを認めれば、マンションの全てのルールに対する信頼が損なわれ、マンションの管理運営態勢が崩壊する……。という事かも知れませんが、屁理屈です。現実的には、今回のような柔軟な対応をしてもマンションの管理運営態勢が崩壊することはありません。

対応策を理事会で決める

  • このプロセスも通常のクレーム対応と同じです。「【実践編】即効テクニック/Stage⑦対応を決定する」テクニック⑦-2の通り、申出人の要求を一旦忘れて、最適な解決策を考えます。
  • 居住者Zの事情に応じた駐車ルールの特例を作ることは問題なし。そのまま継続です。ただし、細則ルールの文言に柔軟な対応の余地が読み取れないのは良くないので、年度末の定期総会に付議して細則ルールの細かい表現を改める。と言うのが最適な対応でしょう。年度末まで時間があるので、一緒に他の規定の修正も必要かどうか確認して、じっくりと落ち着いて対応すれば良いということしょう。

申出人の面子を潰さないようにしながら、理不尽な要求を拒絶する

  • やはりここでも有効なのが「【実践編】即効テクニック/Stage⑨円満に解決する」テクニック⑨-2テクニック⑨-4です。折衝担当者となる理事長Bは申出人Xのことが好きになっているので怒りません。円満解決のために申出人の面子が立つ花道を整えます。
  • ここで大仰な花道は禁物です。申出人を悪者にしたてあげなければ良いだけです。過剰な花道を作って申出人Xを気持ち良くさせ過ぎると、それが申出人Xにとって「好子」となってクレーム行動を強化させてしまう(癖になる)からです。そのことは「【理論編】構造的理解/第8講:クレーマーを動かす」で詳しく説明しています。理不尽なクレームをすること自体は「悪い行動」なので無視をして弱化させなければいけません。しかし、申出人Xがマンションの居住者であることから今後ともお付き合いをしなければならないため、喧嘩別れを避けるという程度に申出人Xの面子を潰さなければ良いです。
  • 兼ね合いが微妙ではありますが、難しいわけではありません。理事長Bは申出人Xに次のように言います。
  • 「Xさん。今回はね、Zさんが困っているので柔軟な対応がやっぱり良いですよ。マンションは助け合いですからね。こんな時、柔軟な対応が恣意的に濫用されないように理事会で協議して決めるっていうのも良いですね。今回もそうしました。他の居住者の皆さんも理解してくれますよ。でもね、細則ルールの書きぶりはXさんが言うように何とも硬直的ですよね。これ、直しといたほうが後々良いですね。他の規定も含めて、この際、現実的でない文言がないか確認して、年度末の総会でまとめて付議したいと思ってます。Xさんのように、物事をきっちりと考えられる方がいらっしゃるといいですね。助かります。今から理事に加わって役員として助けてもらえます?それは無理か。お忙しいだろうし、それこを規定がないし……。でも、年度末の総会は出られるでしょ。2月の下旬ですよ。そこで応援して下さいね。サクラってわけじゃないけど……」
  • こんな程度のフレンドリーな話し方が良いのです。理事長Bは申出人Xのことが好きなのでフレンドリーに話せるのです。申出人Xは自分のことが好きな人を攻撃しづらいのです。でも、「これからも、またよろしくお願いします。」とか「いろいろアドバイス下さい。」というようなことは言いません。理不尽な要求など調子に乗って再び持ち込まれると迷惑だからです。