【クレーム事例:013】スーパーマーケットの店員の態度が失礼だ。土下座しろ!と譲らない。
《事例概要》
些細な接客対応のミス ▶ 申出人のペースで会話を仕切られ墓穴を拡げる ▶ 「土下座」による謝罪を強く要求される
- 接客態度についての、ほぼ言いがかりのような不満からこの事例は始まります。
- 夕方、握り寿司のコーナーで店員Aが割引シールをはっています。50代の会社帰りのサラリーマン風の男性の店内客X(申出人)がその様子を見て、店員Aを呼びつけます。「ちょっと、おねえさん。」
- 店員Aはすぐに自分が呼ばれていることに気づかなかったのですが、2度目に声をかけらえたの気づいて、申出人Xの笑顔で近づきます。
- 申出人Xは言います。「おねえさん、こっちの刺身にも割引シールをはってくれ。」
- 店員Aは、時々そのように冗談交じりにからかうお客様がいらっしゃるので、今回も笑いながら「それは無理ですね。」と言います。ちょっと楽しい掛け合いになるのかという気持ちでした。でも、申出人Xの様子は違います。
- 「なんで?」「なんでとおっしゃられても、全ての商品に割引のシールをはっているわけではありませんので。」
- 「じゃあ、どんな商品にシールをはるんだよ!」「それは、……加工時間や鮮度などを考慮して、本日中に販売した方が良いと判断した商品という事になりますが……」
- 「この刺身、明日も売るのか?」「お刺身を持ち越すことはありませんが……」「じゃあシールをはれよ。何で無理ってさっき言ったんだよ!」申出人Xの声が少し大きくなります。
- 「ですから、全ての商品に割引シールをはるということではありませんので……」
- 「ですから、って同じこと二回言ってどうすんだ。お前、頭悪いのか?それとも、こっちが一回じゃ理解できないほど頭が悪いと思って馬鹿にしてんのか?なんでこの刺身は割引にならないのか聞いてるんだよ。店の全ての承認に割引シールをはれって非常識なことを私が言ったとでも言いうのか?でたらめ言ってんじゃないよ。」
- 店員Aはたじろぎます。怖くなってスムーズに話せません。普段の明るい柔軟な対応ができません。「けして、そんなつもりではありません……」
- 申出人Xは、どうしようもないという呆れた態度でいいます。「あんた、笑ってたよね。無理ですって言いながら。客をなめてんのか?呼んでもすぐには来ない。お客の要望を鼻で笑ったようにあしらおうとする。ちゃんと理由を来ているのにまともに答えない。どういう事なんだ?あんた、何年ここに勤めてるんだ?」
- 「一週間です。」「え?新人なの?」「いえ、そういうわけでも……」「だって、入って一週間なんだろ?」申出人Xの声のトーンが少し抑え気味になります。
- 「この店で新人と言えばそうなのかもしれないですが、先月までは隣町の系列店で3年働いていましたので、新人とは言えないような……」「あんた、俺を馬鹿にしてんの?」申出人Xは完全に怒りだします。「店長を呼べ!いま直ぐに店長をここに呼べ!」
- チーフのBがトラブルを察して速足で近づきます。「お客様、どうされました?」
- 申出人Xは、店員Aの対応を悪さをチープBに散々まくしたてます。
- 確かに申出人Xの言う話も、分からなくはないとチーフBは思います。受け答えの些細な部分ですが、店員Aの対応も望ましくない点があったと感じます。
- チーフBは言います。「この度は、ご不快な思いをさせてしまいまして、大変申し訳ありませんでした。」
- 申出人Xは言います。「口先に謝っても駄目だ。態度でしめせよ。俺は金なんか要求しないよ。普通はこういう時は、土下座で納めるものだろう。申し訳ないという気持ちが本当なら、店員とあの店員が二人で土下座するものだろう。それができないってことは、口先で誤魔化そうってことになるが、そんな肚なのか?とにかく、ちゃっちゃと終わらせてくれ。こっちもこんなことに関わっていられないんだ。」
- チームBは思います。店内のほかのお客様がいるところでの土下座などありえません。まして女性の店員Aに土下座などさせるわけには行きません。自分だけが責任者として土下座すれば、この場をやり過ごせるのか?とも頭に浮かびます。しかし、そうしたからと言って申出人Xが満足して、店員Aへの土下座の要求を取り下げるこのになるのかどうかはわかりません。このような場合、何がベストは対応なのか?チーフBは判断がつかずに焦ります。
《適切な対応》
申出人を怖がらない ▶ 質問にまっすぐに答える ▶ 申出人を見下さない ▶ 人目を遮断する ▶ 申出人を「良い人」にして円満解決
悪気のない勘違いは仕方がない。気にしない。
- 「シールをはってくれ」と言われた店員Aは、お客様が冗談を言って笑いを誘っているんだろうと思って、わざと短く、笑いながら「無理ですね。」と答えます。お客様が面白い応対をしてるれるかな?と少し期待します。しかし、これが大外れでした。
- しかし、お客様とのちょっと可笑しい掛け合いに応じますよ。という姿勢だったのでお客様を見下したわけではありません。外したとしても、仕方がないことです。悔やむことではありません。こういうこともあるのか?と経験を積めば良いだけのことです。
お客様からの質問には、正直に答えるのではなく、まっすぐに答える。はぐらかさない。
- 話しかけてきた申出人Xがクレーマーであると判断できないうちは、大切な顧客として接します。大切な顧客からの質問には、まっすぐに答えます。「なんで?」と申出人Xは、指し示す刺身に割引シールをはらない理由を尋ねています。店員Aは「全ての商品に割引のシールをはるわけではありません。」と答えていますが、この回答はまっすぐな答えではありません。刺身に割引シールをはらない理由にはなっていないからです。まっすぐに答えないということは、不誠実です。クレーマーでなくても、訊ねたお客様はイラっとします。
- 「なんで?」と理由を聞かれたら、まっすぐに理由を述べればいいのです。几帳面に社内のルールを説明する必要はありません。ただ、逃げずにまっすぐに答えるのです。例えば、「それはシールはりを任された私の感覚です。その商品が売れ残って廃棄することになりそうだと感じたらシールをはりますし、きっと今日中にお買い上げいただけるなと感じたらシールをはりません。」という答えでも、まっすぐな答えです。極端な答え方として、ニッコリ笑って「それは企業秘密です。」でも、逃げずにまっすぐに答えています。理由を言えない理由をまっすぐに答えている形になっているからです。
- なぜ店員Aが、まっすぐな答えをせずにはぐらかしてしまったかと言うと、店員Aが申出人Xを少し怖がったからです。気持ちにバリアをはってしまったから、逃げるようにはぐらかした答えをしてしまいました。「【実践編】即効テクニック/Stage②第一印象を整える」の中のテクニック②-2を思い出して下さい。申出人を怖がらずに好きになれば、質問に対するまっすぐな答えを柔軟に繰り出すことができたのでしょう。
お客様を見下しては話にならない。
- 「ですから。すべての商品に割引シールをはるわけではありません。」の「ですから」は、それだけでアウトです。
- 誰と話をするときでも同じことですが、「ですから」とか「だから」という接続詞をから話し始めるのは相手を見下した話し方です。この、唐突に言い始めた「ですから」「だから」の後に、既に言った言葉と同じ言葉を繰り返すのは、徹底的に相手を馬鹿にした口のきき方です。この口のきき方には苛立った店員Aの気持ちが込められていることが相手に伝わります。「あなたは、頭が悪いのですか?さっきも言いましたよね。理解力がないようなので、もう一度同じことを言いますよ。こんどは良く耳をかっぽじいて聞いて、ちゃんと理解して下さいよ。で・す・か・ら、……」
- これは失礼です。おまけに店員Aは、自分がはぐらかした答えをしたうえでこれです。申出人Xが怒るのは当然です。申出人をクレーマーだと判断してわざと苛立たせようとしているのなら意味が分かりますが、この時点では申出人Xはクレーマーではありません。この事例は、申出人Xを苛立たせてクレーマーにしてしまった可能性の高いケースです。
- なんで店員Aはこんな行動をしてしまったのでしょう。先に述べたように、申出人を怖がって心のシャッターを下ろしてしまったからなのですが、こうならないための心得があります。「【導入編】3つの心得」の心得②を思い出して下さい。自分は役を演じているだけ、と思えば怖さがなくなります。バタバタとシャッターを閉めるような折衝はしなくなります。しかし、事例では店員Aは余裕を失い、目を覆うような対応を続けてしまいます。
申出人が過剰な要求をした時点で、クレーマー。
- 申出人Xは、単に刺身を値引きして欲しいと言っている普通のお客様でした。店員Aが怖がって腰の引けた対応をしてしまったので、怒らせてしまいました。チーフBがカバーに入ります。チーフBは正直にお詫びします。良い対応です。にもかかわらず、申出人Xは店員Aの土下座による謝罪を要求します。これは明らかに過剰です。過剰な要求をした時点で、残念ながら申出人Xはクレーマーです。対応も対クレーマーモードに変わります。過剰な要求には一切応えません。土下座などするわけがありません。
- 過剰な要求には一切応えないが、クレーマーの面子を整えて円満解決を狙うことになります。「【実践編】即効テクニック/Stage⑨円満に解決する」のテクニック⑨-2を思い出して下さい。この事例では申出人の面子の立つ花道を整える上で障害になっているものがあります。まず、その障害を取り除きます。
人目は申出人を引くに引けなくしてしまう
- 申出人の面子の立つ花道を整える上で障害になっているのは人目です。スーパーの店内で大きな声でクレームを言い出せば周りの人が耳をそばだてます。周りの買い物客の中に綺麗な女性でもいようものなら最悪です。申出人Xは自分の要求を何としても通さなければならない。そうしないと格好がつかなくなります。
- 「ゆっくりと奥の部屋でお話を聞かせて下さい。」と応接室にご案内して、人目を遮断して申出人の要求が通らなくても面子がつぶれないという状況を作ります。
- 申出人を応接室のソファーに座らせ、お茶でもお出して、天候の話か野菜の値段の話などで少し気を紛らわせてから、改めて身を正して、失礼な対応をがあった点を素直にお詫びします。そして申出人に良い人と言うキャラを付けて円満解決を目指します。「【実践編】即効テクニック/Stage⑤相手にキャラを付ける」を参考にして下さい。
- 店員Aは普段は気さくで明るくて多くのお客様に気に入っていただいているが、今日はお客様を怖がってしまい不本意な対応になってしまったと説明し、お客様を怖がらないように指導することとし、これからも店員Aを贔屓にして欲しいとお願いします。
- そして、最後に、申出人Xの今日の買い物の予定をお聞きし、問題の刺身の割引はできないが、代わりになるような店内のおすすめの商品をご案内し、親身に良い買い物ができるようにサポートして、それを申出人が受け入れれば円満解決です。多くの場合は、そのように解決します。
- 悪意のある職業的なクレーマーでなく、こちらの対応の不手際で怒らせて、その勢いでクレーマーになってしまった申出人は、ドロドロの喧嘩をすより「良い人」にされて円満に解決する方が気持ちが良いので、さっさとクレーマーであることをやめます。人は「爽快・安堵」に突き動かされる生き物なのです。「【理論編】構造的理解/第8講クレーマーを動かす」を参考にして下さい。
- このような対応をしても、なお「土下座しろ」「誠意を見せろ」と言い続けるようであれば、申出人Xは悪意のある職業的なクレーマです。そうと分かれば折衝はむしろ単純で楽になります。「【理論編】構造的理解/第7講クレーマーとの交渉」を参考にして下さい。「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」接しながら、些細な満足も与えずひたすらイラつかせ、申出人から受ける罵詈雑言、異常な行動を詳細に記録に残して外部の裁定に備えるだけです。ただし、そのような悪意のある職業的なクレーマーには滅多にお目にかかれませんので、見極めを間違えないようにして下さい。