1.顧客かクレーマかを速やかに見極める

  • 顧客への対応とクレーマーへの対応は真逆です。顧客に対してクレーマーに行うべき対応をしてはいけないし、クレーマーに対して顧客に行うべき対応をしてはいけません。
  • そのためには、申出人が顧客かクレーマーかの見極めをしなければなりません。
  • 見極めは、申出人の「特別な要求」が理不尽であるかどうかだけに着目して行います。
  • 時に、短気ですぐに怒鳴りだす怖い人がいます。不機嫌そうににらみつける怖い人もいます。低い声で脅されているような気になる怖い人もいます。そういう怖い人がクレーマーだということではありません。怒鳴ったり睨みつけたりするのはお人柄に過ぎません。そのような外見に囚われずに、「特別な要求」の内容だけに注意を集中します。とても穏やかな話し方で、紳士的な態度であっても、「特別な要求」の内容が理不尽であればクレーマーです。そして、そのような礼儀正しい冷静なクレーマーが一番手ごわいのだと思って下さい。
  • 「特別な要求」が理不尽であるかどうかを判定するポイントは次の3つです。
    • ① 提供メリットに対する期待メリットが大き過ぎないか?
    • ② 提供メリットと獲得メリットの差に対する不満が大き過ぎないか?
    • ③ 不満に対する特別な要求が大き過ぎないか?
  • 3つの判定ポイントのいずれもが大き過ぎず理にかなっていれば、その申出は「苦情」であり、申出人は「顧客」です。反対に判定ポイントのいずれかが大き過ぎて理不尽であればその申出は「クレーム」であり、申出人は「クレーマー」です。

2.クレーマーには些細な満足も与えない。ひたすらイラつかせる

  • 顧客対応の基本は「満足していただく」ですが、クレーマー対応の基本はその真逆で「些細な満足も与えない」です。
  • この「些細な」が大切です。全く、微塵も、満足させてはいけません。
  • なぜなら、クレーマーの心理が、自分を価値のある偉い人間だと思い込み、その確認をしたがっているものだからです。その目論見をことごとく失敗させるのです。
  • 常習的なクレーマーは、これまでたくさんの会社を相手にクレームを叩きつけて何らかの気持ちの良さを得ています。クレーマーになると気持ちが良いと脳が学習してしまったので癖になっていいるのです。ここで、僅かであってもあなたがクレーマーに気持ちの良さを与えてしまうと、この会社も美味しい会社だと脳が認識してもっとはっきりと気持ちよくなりたくて、知恵の限りを尽くしてたクレームを叩きつけて来ます。とても面倒なことになるのです。
  • クレーマーがあたなに求める姿勢を分かりやすく感覚的な表現で言うと「ちやほや」「ぺこぺこ」です。あなたが「ちやほや」「ぺこぺこ」してくれるとクレーマーは「自分は価値のある人間だ」と錯覚して気持ちが良くなります。麻薬のようなものです。あなたは麻薬患者から麻薬を断つように「ちやほや」「ぺこぺこ」を断てば良いのです。
  • クレーマーはいつもの調子が出なくてイラつきます。大騒ぎをします。しかし、どんなに騒いでも根負けして「ちやほや」「ぺこぺこ」をちょっとでも与えて落ち着かせようなんて思ってはいけません。それが最悪です。
  • 例えば、母親がスーパーの買い物に子どもが連れて行ったとします。その子どもがお菓子売り場から動かなくなって「お母さんこのお菓子買って」と言ったとします。ロボットのモデルにガムが一つ入っているだけのお菓子。母親はそんなモノを理由もなく買い与えることはできません。早く帰って夕飯の支度をしなければなりません。母親が子どもの手を引いて帰ろうとします。子どもはスーパー中に響き渡る声で「お菓子買って、買って、買って」と泣き叫びます。周りの客も不審そうに見始めます。母親は周りの目を気にし、夕飯の支度をする時間を気にし、「今日だけよ、今日だけよ」と念を押しながら買い与えてしまいます。子どもはその日は機嫌よくなり、ちょっと良い子になったりします。そして、次にスーパーに買い物について来たときも子どもは同じことをします。子どもは駄々をこねるという母親にとって悪い行動をした結果、お菓子を買ってもらえたというご褒美をもらったのです。また、恐ろしいことにこの子どもは母親が自分のわがままを聞いたという自分にとって都合の良いことをした母親に、その日はちょっと良い子になるというご褒美をあげているのです。誰が誰に躾けられているのでしょう?
  • あなたがクレーマーに躾けられたくなかったら、クレーマの悪い目論見をことごとく失敗させ、イラつかせ、大騒ぎをさせ、それを放置すれば良いのです。けしてクレーマーの大騒ぎに動揺してクレーマーの歓心を得ようとしてはいけません。

3.クレーマーにはことさら「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」接して、その記録を残す

  • クレーマーの悪い目論見をことごとく失敗させるために、あなたはクレーマーに「ちやほや」も「ぺこぺこ」も提供しないのですが、そのやり方にはコツがあります。
  • 簡単なコツです。「ちやほや」しない「ぺこぺこ」しない上に、「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」を付け加えるのです。
  • この「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」という作戦を取るあなたは、それだけでクレーマーにとって手ごわい折衝担当者になります。
  • その態度がクレーマーにとって手ごわいために、クレーマーはその態度を攻撃してあなたの動揺を誘います。「お前は俺をなめてんのか!ふざけんな!お前、ただじゃおかないぞ。なめた態度取りやがって!」と言われるかも知れません。しかし、「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しい」態度が悪いはずがありません。あなたはことさらにその態度を徹底します。
  • 「ちやほや」しない「ぺこぺこ」しない「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しい」態度に徹するあなたは、クレーマーにとってとんでもなく厭な奴です。罵詈雑言の嵐となります。あなたは、それを丹念に記録に残せばよいのです。クレーマーが冷静さを失って言い過ぎれば言い過ぎるほどあなたの会社には有利になります。その有利なことをしっかりと記録に残せば、その有利はその場限りではなくなります。

4.クレーマーに同意してもらおうとは思わない。世間の皆様から支持をいただくと考える

  • クレーマーの悪い行動を放置していると、クレーマの怒りはどんどん激しくなり、要求がどんどんエスカレートして収集がつかなくなると心配されているのであれば、それは無用の心配です。
  • そもそも理不尽な要求をするクレーマーは、あなたの会社をいたぶって気持ち良くなろうとしている申出人です。目的が、あなたとあなたの会社の踏みにじろうとしているので、あなたがいくらご機嫌をとっても理不尽な要求を取り下げません。あなたがクレーマーの機嫌をよくして何らかの許容できる同意を得て、一連の折衝を終結させたいと思っているのなら、それが間違いの始まりです。
  • 申出人がクレーマーであることをやめないのであれば、あなたはクレーマーから同意を得る必要はありません。世間(第三者)の目で、あなたと申出人の折衝の全てを見て、あなたとあなたの会社に正義があると思ってもらえれば良いのです。あなたは、世間の皆様から支持をいただけるように行動し、それを記録に残せばよいのです。
  • 「ゆっくり」「冷静に」「礼儀正しく」申出人に接し、道理に合わないことに一切応じず、道理に合った解決策を提示しつづけるあなたと、理不尽な要求をして罵詈雑言の大騒ぎをしている申出人とを比べて、どちらに正義があると世間の皆様が思うかです。
  • クレーマーとの折衝は世間の皆様からの支持を得るという目的で対応すれば良いのです。
  • さらに踏み込んだクレーマーとの折衝は、理不尽なクレームを理にかなう苦情に変え、申出人をクレーマーから大切な顧客に変えようとします。そのように「クレーマーを動かす」方法は次の講座で説明します。