テクニック⑧-1:事実確認・検討・社内調整が不十分なうちは何も伝えない

  • 申出人は早い段階から「どうしてくれるんだ?」「お前はどうするんだ?」「お前のはどう思っているんだ?」と、あなた(折衝担当者)の考えや会社の対応について聞いてきまっす。その時、事実確認が不十分であったり、あなたの心の中で最適と思う解決策が固まっていなかったり、その最適と思う解決策を実行するための社内調整(上司、関連部署への説得)が終っていなければ、何も話してはいけません。なんの手掛かりも申出人に与えてはいけません。あなたが行う今後の折衝の自由度が制約されるからです。
  • 「お前の会社はトンデモないことをしたんだ。わかっているのか?どうしてくれるんだ?!」と凄まれても気にすることはありません。決まっていないことは話せません。「お客様のお気持ちは分かります。おっしゃる通りであればお怒りはごもっともです。当社として適切な対応をさせていただくことになります。つきましては、事実の確認をさせていただきます。」と言い、事実確認に要する時間の見通しを示し、その時間が長いようなら中間の報告をする日時を約束すれば良いのです。
  • もちろん、事実確認の結果を何回中間報告をしても、その折衝の中でどういう解決策を考えているかは一切明かしません。

テクニック⑧-2:解決策を決めたら、それを提示する前に受け入れ態勢を整える

  • 申出人がクレーマーであれば、要求内容は合理性を逸脱した過剰なものになっています。したがって、あなたが決めて社内調整を終えた最適な解決策は申出人の要求とはかけ離れています。その申出人の要求とかけ離れた解決策をいきなり提示すると、びっくりさせて感情を無用に逆なでして面倒なことになります。
  • そのような無用な反発感情を避けるために、事前に解決策を決定したときの判断根拠になった要素をバラバラと伝えておきます。そうすると、申出人があなたから解決策を聞いた時、あなたの会社がなぜそのような判断をしたのか見当がつくようになります。出鱈目な解決策ではなく、十分に考えられたものだと最初に聞いた瞬間に理解します。申出人は感情的に反発するより理屈で話をしなければならないと覚悟します。
  • 判断根拠となった要素をバラバラと伝える時は、「悩んでいる」という姿を見せます。答えが出ているとは思わせません。そして、判断根拠の要素はそんなに多くはありません。「お客様間の公平性」「法令順守」あたりになります。
  • 「お客様のおっしゃる気持ちもわからないことはないのですが……」と前置きして「他のお客様との公平性という点で困っています。」「お客様のご要望ですと〇〇法に抵触して〇〇であると〇〇(監督官庁、裁判所)に判断される可能性があり困っています。」とひとしきり困っている状態にして、申出人が「そんなことどうでもいいではないか!」と言われても「そうおしゃいますが、そういうわけにもいかず困っています。」と繰り返します。

テクニック⑧-3:機が熟したら解決策を提示する。提示は1回だけ。交渉しない。

  • 機が熟すのを待ち、ベストなタイミングで解決策を提示しますが、その解決策は変更しません。
  • 解決策は十分に検討したものなので、もう変わりようがないからです。申出人に何かを言われて考え漏れに気づいて修正するようでは駄目です。そんなことがないように十分に考え尽くしたはずです。なので、解決策の内容についての交渉に応じてはいけません。
  • 会社として受け入れられる解決策を複数用意できていれば、申出人にそのいずれかを選択させることはできますが、その場合でも解決策の内容は変えません。
  • 言い方はワンパターンです。解決策が一つしかな場合は「当社としてできる対応は○〇〇です。つきましては〇〇〇の用紙をお送りしますので……」と、解決策を伝えて、すかさずその手続きの説明に入ってしまいます。申出人は「まだ了解していないぞ。勝手に話を進めるな!」と言われるかも知れません。でも構いません。「当社としてできる対応は今申し上げた通りです。つきましては……」と同じことを繰り返します。申出人の了解を取る必要はありません。申出人は了解せざるを得ないのです。
  • 解決策が複数あっても、基本的には同じです。「当社としてできる対応を二つご用意しました。一つは〇〇〇です。二つ目は〇〇〇です。いずれに致しましょうか?」と言います。この時も、いずれかを選択してもらうだけであって、解決策の内容についての交渉には応じません。
  • 大切なことは、これが会社としての最終回答であって、これ以上いくら粘っても良いことは起きないと、申出人に諦めさせることです。そのためには、解決策の内容についての交渉に応じず、何を言っても岩盤のように1ミリも譲歩を引き出すことはできないんだと思わせなければなりません。駄々をこねると良いことが起きるかも知れないなとどいう期待を微塵も与えてはいけません。そんな期待を少しでも与えると、延々と駄々をこねられます。
  • なので、解決策を提示した際に、「これでよろしいでしょうか?」などとは口が裂けても言いません。それを言わないために、すぐに手続きの話をするのです。以降は手続きの相談をするだけです。こちらから送る合意書に記名捺印をして返送する期限を、今週中にするか今月中にするかというような相談をするだけにします。
  • ここで折衝が決裂したら、決裂したままにします。決裂した状態が100年続いても構わないと肚を決めます。しかし、申出人があらぬ期待を持たない限り、折衝が長く続くことはありません。
  • 会社として最適な解決策を提示しているのです。それは、世間様が見ても納得できる解決策なのです。申出人が過剰な何かを得ようとして駄々をこねても、それに動じず毅然とした姿勢を貫く会社は立派な会社であり、そのような折衝をするあなたも立派な折衝担当者なのです。