テクニック⑥-1:自分の心に宿る「願い」を捨てる

  • 生徒が自殺をした中学校で「いじめ」がなかったか否かを調査する時、調査チームの指揮を執る校長が、「いじめ」がなかったことであって欲しいという願いをもっていると、事実を見る目が曇ります。学校側の調査で「いじめ」は無かったと発表しても、遺族が信じずマスコミも信じず、第三者委員会が設置され再調査の結果、ひどい「いじめ」がありましたという調査結果が発表される。その後の学校と遺族の話し合いはどうなってしまうのでしょう?
  • 申出人が何かの不満を表明している場合、その申出人が通常の顧客であるかクレーマーであるかに関わらず、会社側に何らかの落ち度があった可能性があります。その落ち度が申出人の主張する通りであるのか、何かの誤解であるのかを見極めなければ、適切な折衝をすることができません。
  • この見極めをする時に、人の気持ちとして「会社側に落ち度がなかったということであって欲しい」と願うものです。しかし、その願いを捨てなければ先の学校のたとえ話のような困った状況に追い込まれてしまうと思って下さい。

テクニック⑥-2:最悪の事態を覚悟する

  • 「願い」を捨てるのはなかなか難しいのですが、そのための具体的なテクニックとして、最悪の事態を覚悟することはとても有効です。
  • 申出人が訴える会社側の落ち度が、申出人の言う通りである、もしくはそれ以上にひどかった場合を、考えられる限り最悪な状態として思い浮かべます。そして、そうであった場合に、自分や自分の会社がどう振舞うのがベストであるかを想像します。ほぼ荒唐無稽なほどひどい状況を想像しているので、周りの人に話せば「あり得ないよ。あなたはそんなに自分の会社、自分の仲間を信じられないの?」と非難されてしまうので、誰にも話しません。ただ、あなたの心の中で荒唐無稽なほど最悪の事態を思い浮かべて、その時にベストな対応を考えます。
  • そんな一人妄想をして何の意味があるのかと思われるかも知れませんが、これがとても役に立つのです。
  • どんな最悪の事態を想定しても、その時のベストな対応を実行すれば、それなりにどうにかなると分かるからです。けして会社が倒産したり、自分や周りの人が死刑になったりすることは無いのです。むしろその時なりのベストな対応をすれば、それなりに会社の信用を保つことができるだけでなく、より良い会社にすることができるかも知れません。最悪の事態になっても、諦めずにベストな対応をし続ければ、大したことないのだと肚をくくることができるのです。怖いものがなくなるのです。怖いものがなくなれば、あなたは切れ味の良い行動ができるようになります。

テクニック⑥-3:何かを守ろうとしない

  • 「願い」を捨てるための具体的なテクニックとして、何かを守ろうとしないことはとても有効です。
  • 事実確認の妨げのとなる「願い」は、何かを守ろうとするから生じる心理です。
  • 一体自分は何を守ろうとしているのかを自問します。自問してみると、事実を曲げて噓をついてまで守らなければならないものではないと気づきます。
  • 例えば、会社の信用。それが世間に知られたら会社の信用が地に落ちる。大変なことになってしまう。と思うかも知れません。いやいや、現実から目を背けずに真直ぐ改善に取り組む姿勢を示す会社の信用は地に落ちません。それより、それを隠蔽して露見した場合の会社への世間のバッシングはもっと恐ろしい。よく考えれば、守らなくても良いのもを守ろうとしていることに気づきます。
  • 事実を隠して、世間を欺いてまで守らなければならないものはないのです。あなたは、事実確認をする際に何も守ろうとしなくて良いのです。何かを守ろうと思った時点で、ろくなことは起きません。

テクニック⑥-4:周りの人にも肚をくくらせる

  • あなた一人が余計な「願い」を捨てて事実と正面から向き合っても、あなたと一緒に事実を確認するあなたの周りの人が、何かに囚われて事実から目を背けたがっていれば、会社として適切な振舞いができません。折衝担当者であるあなたは、不本意な状況に追い込まれかねません。
  • なので、事実確認に関わる全ての人に、余計な「願い」を捨て、肚をくくってもらう必要があります。
  • とは言え、関係者一同を大きな会議室に集めて、ブルータスさながらの演説をしても徹底することはできません。一人でも事実から目を背けたがる人が残っていて、その人が事実確認の工程で影響を与えると、会社として認識する事実が歪みかねません。
  • でも、大丈夫です。事実確認の工程で影響を与えることが出来る人は限られているからです。多くても5人程度です。その5人程度の人に肚をくくってもらえばよいのです。5人程度とは言え、人はそれぞれに立場が違い世界観が違います。その人その人に合った肚のくくらせ方をすれば良いのです。
  • 会社の信用の失墜を恐れる経営者には事実を隠さない方が会社のためだ。むしろ過去の因習にとらわれた問題を解決するチャンスだ。と説得し、部下の将来に傷をつけたくないと思っている現場の管理者には、むしろここでちゃんと指導した方が本人の将来のためだ。と説得します。この説得はそう難しいことではありません。なぜなら、みんなが事実を隠蔽するという後ろめたいことをするストレスから解放されるからです。