【クレーム事例:007】高齢者を認知症扱いした!許せない!と言われ……

キャラ付けをする図

《事例概要》
申出人の母親への対応に不満 ▶ 「上の者に代われ」の要求が変わない

  • 【クレーム事例:006】の話が続きます。
  • 申出人の男性は女性事務員に、問題は自分のことではなく、80歳の母親のことだと言います。今後の説明を分かりやすくするために、申出人を申出人X、母親を母親Y、女性事務員を受電者Aと表現します。
  • 母親Yは新聞のチラシ広告を読んで健康器具に興味をもって事務所に電話をしたとのこと。そうしたら、最寄の販売店の販売員Pが自宅にサンプルを持って説明しに来たとのことです。
  • 販売員Pが使い方を目の前で説明してくれて、簡単に使えそうだったので母親Yは購入を決めて代金を払ったとのことです。
  • 後日、梱包された商品が届いたが、母親Yには最初の設定が分からず、その健康器具を使うことができなかったとのことです。
  • 母親Yは販売員Pに電話をかけて、設定の仕方を聞いたのだが、説明されていることが良くわからない。何度も同じことを聞いているようで、販売員Pの態度が冷たくなり、母親Yのことを認知症だと言い始めたとのことです。
  • 母親Yはすっかり嫌気が差して、その健康器具を使うのを止めてしまったとのことです。
  • 申出人Xは会社の不親切な対応、母親Yを認知症扱いしたという不適切な対応に腹が立って、営業所長に一言文句を言わなければならないと思って電話をした。とのことです。
  • 最初に電話をした時、電話に出たのは受電者Aではなく他の女性だったが、申出人Xの怒っている様子だけを理由に電話を切られてしまった。すぐに2回目の電話をしたら受電者Aが出てやっぱり電話を切られてしまった。そして3回目の電話をしたところ、また同じ受電者Aが出たが、どうしても用件を言えと言うので説明した。
  • 会社の顧客に対する姿勢に問題があるんだ。地域の販売店を取りまとめている営業所の所長に話をしなければならない問題だ。だから、いますぐにこの電話を営業所長Eに繋げろ!との強い要望を受けました。
  • 受電者Aは申出人Xの話を聞いて、申出人Xが怒る理由も良くわかったのですが、それではと言って営業所長Eにその電話を回すことは出来ないと感じ、躊躇します。
  • その様子に申出人Xは激高します。「何をグズグズしてんだ。話せと言うから事情を話したぞ。お前もわかったろう。とっと営業所長に代われ!」
  • 営業所長Eは事務所にいます。電話を転送すれば電話に出ることができます。しかし、そうしてはいけないと受電者Aは思います。しかし、事情を説明し終えた申出人が、営業所長Eと話をさせろ!と言う気持ちもわかります。受電者Aはどうしたら良いのか分からなくなってしまいます。

《適切な対応》
徹底した傾聴 ▶ 互いに良い人になる

申出人が話始めたら徹底した傾聴

  • 申出人Xがいろいろ話を始めれば、めでたく第一関門突破です。そうなったら、どんどん話をしてもらって、「【実践編】即効テクニック/Stage③傾聴に徹する」をフルに活用します。
  • まず、「テクニック③-1:情報収集フェイズでの反論は邪魔」を思い出して下さい。申出人Xはいろいろなことを言う中で、「それは言い過ぎだろう」とか「それは誤解だ」と思うことを言います。それに一々反応しません。まして反論などしません。受電者Aの役割は、申出人Xからできるだけ情報を引き出すことです。
  • そして、「テクニック③-2:漫然と聞くのではなく、聴きたい事を聴く」を思い出して下さい。聴きたいことは、本当の「期待メリット」「獲得メリット」「不満」「要求」です。これがなかなか簡単なことではありませんが、これが分からないと折衝の進めようがありません。注意力の限りを尽くし、想像力で補完しながら、「期待メリット」「獲得メリット」「不満」「要求」を特定する努力を続けます。折衝中、ずっとこの努力を続けることが大切です。折衝を続けるうちに、「要求」が変わることがあります。どのように「要求」が変わっても「期待メリット」「獲得メリット」「不満」「要求」の4つの要素が合理的な関係で成り立つかどうかを確認し続けます。何度も繰り返しますが、ここで合理的な関係が成り立っていれば「要求」は「苦情」であり、申出人は満足していただくべき顧客です。理不尽であれば「要求」は「クレーム」であり、申出人は満足させてはいけないクレーマーです。

「不満」と「要望」は何か?

  • この時点で申出人Xの不満は、次の2点であるように思えます。
    • 販売員Pの母親Yへの対応が不親切
    • 販売員Pが母親Yを認知症だと言って屈辱した
  • 確かにひどい。しかし、事実かどうかはまだ分かりません。そして、申出人の要求は相変わらず、営業所長Eと話をさせろ!です。
  • この「要求」が良く分かりません。営業所長Eと話しができれば満足するということではないはずです。営業所長Eと話をして、そこで本当の「要求」を突きつけようとしているように思えます。申出人は社員教育を問題にしているので、それに関する「要求」をすると思われますが具体的にどんな「要求」になるのか分からないです。
  • さらに「要求」以前の「不満」についても、それが合理的かどかを判断するための「期待メリット」と「獲得メリット」の差を把握する必要があるのですが、申出人Yの話を聞くだけではハッキリしません。申出人Yの言う通りであれば合理的な「不満」なのですが、事実の確認をしなければ分かりません。

申出人が何を言おうと、この時点で出来る合理的な対応をする

  • この時点では「要求」を受け入れるか受け入れないかという判断をするのではなく、その判断ができる材料をそろえるための事実確認をする必要があります。
  • そこで受電者Aは、当面の「要求」である「営業所長Eと話をさせろ!」は断わって、「事実確認をさせて下さい」と言わなければなりません。ただ、唐突にそれを言ってしまえば、申出人Xは怒るでしょう。「俺の言っていることが信じられないのか?俺が噓をついていると言うのか?」と言われることは目に見えています。この時点では申出人Xは顧客なのかクレーマーなのか判別できません。ですから、怒らせて良いというものではありません。それなりの納得をいただく必要があります。
  • 受電者Aは申出人Xにとって、受け入れたくないことを逆に要求します。それを整理すると次の3つになります。
    • 今、営業所長Eにこの電話は繋ぎません。ご理解下さい。
    • 事実確認のためのお時間を頂きます。ご理解下さい。
    • 事実確認が出来たら、適任の者が申出人Yにお電話をします。適任の者が営業所長Eであるとは限りません。ご理解下さい。
  • この3つの逆の要求を申出人Xに受け入れてもらうにはどうしたら良いのでしょう?
  • ストレートに懇願する。というのも手ではありますがスマートな折衝にはなりません。そんな時、必ず成功するというわけではありませんが、申出人が逆の要求を受け入れやすくするテクニックがあります。ある意味、このようなネガティブなコミュニケーションをコントロールするテクニックにこそ価値があるのだと思って、チャレンジしてみて下さい。

申出人Xにとって受電者Aが良い人になる

  • まず、簡単なテクニックは受電者Aが自分の気持ちを変えることです。申出人Xは受電者Aにとって他人なのでコントロールすることが難しいのですが、受電者Aが自分自身の気持ちを変えるのは簡単です。
  • 「【実践編】即効テクニック/Stage②第一印象を整える/テクニック②-2申出人を好きになる」を思い出して下さい。当然ながら、罵詈雑言の暴言を吐きまくる申出人Xを好きになるはずがありません。でも、この人は本当はいい人なんだ。と思うのです。口のきき方が乱暴で気が短いので多くの人に誤解されるけど、本当はいい人なんだと思い込み、好きになるのです。その気持ちは必ず受電者Aの言葉・振舞いのはしはしに表れ、申出人Xに伝わります。申出人Xから見た受電者Aの印象が良くなります。申出人Xのように、開口一番怒鳴るような人は、人生の多くの場面で同じようなことをしていて、その都度相手から敬遠され、毛虫のように嫌われるという経験を積んでいます。自分は嫌がられて当たり前だもう気にしないぞと諦めています。でも、受電者Aが他の人と違う態度を取るのです。申出人Xには新鮮です。受電者Aは、ちょっとほかの会社の女性事務員とは違うかも……と思います。言葉にしなくても心のどこかでそう感じます。トゲトゲしていた気持ちが少しだけゆるみます。そのゆるみが糸口になるのです。

受電者Aにとって申出人Xが良い人になる

  • そんなことはあり得ないと思う方もいるかもしれませんが、「【実践編】即効テクニック/Stage⑤相手にキャラを付ける」を思い出して下さい。「テクニック⑤-1申出人の人間性にかかる良い面だけを、幾つも見つけて心の中で言語化する」です。
  • やってみましょう。申出人Xの人間性にかかる良い面をあげます。
    • 母親思い・親孝行…… 異論のないところだと思います。母親Yへの対応を怒っています。
    • 一本気・揺るがない…… 申出人Xの要求は最初から最後まで一つです。揺るぎがありません。
    • 道理が分かる…… 思い出して下さい。お名前とご用件を言っていただかないと何もできないという受電者Aの言うことが道理だと思って、名前と用件を話し始めています。道理が分かる人です。
    • 細かい事を気にしない…… これも思い出して下さい。受電者Aは営業所長Eが会議だから電話に出ることができないと言い逃れをしています。申出人Xはそれが嘘だと見抜いています。人によっては、これを見逃さずに要求を膨らませます。「なんで噓をついたのか説明しろ。」「そばに上司はいるのか?その上司の指示か?」「それは組織ぐるみの噓か?」「文書で説明しろ。」と言うように、ミスをぐりぐりと突いてくる場合があります。しかい、申出人Xはあっさりしたものです。「もう噓はつくなよ」で終わりです。それ以上、このミスを追求しません。細かい事を気にしない人です。
  • 続いて「テクニック⑤-2最終的に円満に折衝を終える布石となるような申出人のキャラを作る」です。さあ、どういうキャラが有効でしょう?申出人の人間性にかかる良い面はすべて使えそうです。次のようなキャラにします。
  • 母親思いの心優しい人。一つの事を決めたら、ああだこうだと迷わない気持ちの良い人。筋を通して道理を話せば分かってくれる道理の分かる人。小さなことにこだわらない器の大きい人
  • 随分良い人が出来ました。そしてこのキャラクターを申出人に刷り込んでいくのですが、その前に刷り込みの効果をあげるための地ならしが欲しいです。多くの場合、申出人が苦情を言う時は対決モードで臨んで来られます。いわゆる「けんか腰」です。まずこの「けんか腰」を緩めます。その方法は「条件付き共感」です。「【ケース:001】約束日時の連絡が伝わらなかった……」の<適切な対応>の最初に記載していますが、「会社のミスの可能性があれば、条件を付けて速やかに詫びる」です。申出人Xが不満を述べている。それらが本当だったら、誠に申し訳ないこと。でも、本当かどうか分からない。だったら、条件を付けて速攻で心底お詫びするのです。
  • 確認いたしますが、もしそのような失礼な事を私どもの販売員が申し上げたのであれば、それはあってはならないこと。誠に申し訳ありません。お母さまにも直接にお詫びを申し上げたい。そのような事を、もし私の母が言われたと思うと私も許せません。X様のお気持ち良くわかります。本当に申し訳ありません。すぐに事実を確認して適切な対応を取らせていただきます。」と、条件を付けて一緒になって怒れば良いのです。事実確認しなければ分からないことで、多くの場合、事実を確認するともう少し複雑な経緯が浮かびあがるものですが、申出人Yの言った通りという前提で、心からお詫びし、一緒に怒っていると、申出人Xの「けんか腰」が緩みます。
  • 「けんか腰」を緩めたら、次は「テクニック⑤-3作り上げたキャラを申出人に刷り込む」を思い出して下さい。申出人Xのキャラ ①心優しい人/②気持ちの良い人/③道理の分かる人/④器の大きい人 に関わる言葉が出たら、間髪入れずにキャラを被せるのです。
  • 「おれは、自分の母親が認知症扱いされることは許せないんだ」→「X様はお母さまのことをとても大切にされるお優しい方なんですね。」
  • 「おれは、所長と話をしたいと言っているだけなんだ」→「確かに、X様は最初のからずっとおっしゃることにぶれがないです。お話をさせていただいていて迷いのない気持ちの良い方だと思っております。とは言え、事実の確認をしてからでないと……」
  • 「おれは、間違っていることを言ってるのか?」→「けしてそんなことはありません。お話をさせいただいてX様は道理の分かる方だと思っています。そのうえで申しあげるのですが、まず事実を確認させていただいて……」
  • 「おれは、細かいことを言っているわけじゃないんだ」→「おっしゃる通りです。X様は細かいことをおっしゃられているわけでないことはよくわかっております。小さなことにこだわらない(器の)大きな方だということは分かっております。その上て、大切な事実確認を……」
  • 人は根拠をもってシンプルに言語化されたスマートな褒め言葉を欲しがります。受電者Aの言葉であっても、欲しい言葉であれば受け入れます。そしてその言葉通りに振舞おうとします。

互いが良い人になれば合理的な提案は比較的スムーズに受け入れられる

  • 受電者Aが申出人Xにとって良い人で、申出人Xが受電者Aにとって良い人になっていれば、受電者Aの合理的な提案を申出人Xは意外にすんなりと受け入れます。
  • 受電者Aは次のように言います。「X様のおしゃられることは良くわかります。おしゃられる通りであれば大変申し訳ないことです。私どもとしてましても、しっかりと事実を確認しうえで適切な対応を取らせて頂きたいと思っています。事実確認に1両日のお時間をください。明日に16時にこちらからお電話をさせていただきたいと思っています。お電話は私、もしくは私以外のより適切な者がさせていただきます。お電話をさせていただくお時間は16時でよろしいでしょうか?」
  • 申出人Xは言うでしょう。「わかった。あんたのところでちゃんと対応してくれるのなら文句はない。明日はちゃんと責任あるものから電話をよこすように。」「ご理解いただき、ありがとうございます。必ず適切な対応を取らせていただきます。ところで、少し話は変わりますが、お話を伺うかぎりでは、お母さまは私どもの製品を使えないままということ。先ほどのお約束とは別に、詳しい者をお母さまのご自宅にうかがわせて、お母さまが使えるようにご説明差し上げることもできるかと思いますが、いかがいたしましょうか?」「もう、そこまで急いでいない。とにかく明日のお宅からの電話を待っているからそれを優先してくれ。」「承知いたしました。それでは、明日16時に私どもからX様にお電話をさせていただきます。本日はご連絡いただき、ありがとうございました。」
  • さて、いよいよ「【実践編】即効テクニック/Stage⑥事実を確認する」に入ります。この事実確認も一筋縄ではいきません。その成り行きを【クレーム事例:008】で詳しく解説します。