【クレーム事例:006】いきなり電話で「バカ野郎。ただじゃ済ませねえぞ。」と脅され……

《事例概要》
電話でいきなり「上司を出せ!」 ▶ 適当な言い訳で断る ▶ 言い訳がばれて激高

  • 営業所の女性事務員が電話を受けると、ほぼいきなり「バカ野郎。お前んとこはどうなってるんだ!所長を出せ!今すぐだ。でねえと、うちの若いもんをそっちにやって、お前んとこぶち壊すぞ!」と怒鳴りつけられます。事務員は怯えます。しかし、頑張って話します。「お客様、どのようなことでしょうか?」
  • 申出人は言います。「ごちゃごちゃ言ってねえで。いいから、早くしろ所長を出せ!お前に用はねえ!」
  • 事務員は頑張って言います。「お客様。そのうような乱暴は話し方をされますと、私どもお話を聞くことができません。ご事情をお話いただけませんか?」
  • 申出人は言います。「お前もそんなことを言って電話を切るのか?ふざけるな!客が所長に話をするって言ってんだ。お前は電話を繋げばいいんだ。それとも、所長はいないのか?どうなんだ!」
  • 事務員は頑張って言います。「所長はあいにく、ただいまお電話にでることができません。私がお話を伺わせていただきます。」
  • 問答は続きます。「電話に出られないって、どういうことだ。外出中なのか?」「外出しているわけではありまんせんが、」「じゃあ何なんだ?」「会議中で」「なんの会議だ?」「社内の会議です」「いつ終わるんだ?」「いつとはハッキリとお約束できません。」「お前、適当なこと言ってんじゃねえだろうな!本当に会議中なのか?お前、俺と話しながら確認してきたのか?」「……」「確認してねえんじゃねえのか?嘘ついたのか?」「……」「お前、ふざけんじゃねえ。ぶち殺すぞ!」
  • 事務員の隣で様子を気にしていた男性係長が顔を横に振って一旦電話を切るようなジェスチャーをします。
  • 事務員は[乱暴な口をきいて脅すクレーマーがその話し方を改めないなら、それを理由に電話を切る]と普段から教わっていたので、「お客様、そのような乱暴な話し方をされますと、私どもこれ以上お話を伺うことができません。お電話を切らせていただきます。」と言って受話器を置きます。受話器から「おい、こら、待て!」という申出人の声が漏れ聞こえならが、受話器は置かれました。
  • すかさず、男性係長が事務員を慰めるように言います。「クレーマーだよ。ひどいよね。話にならない。相手にしちゃいけないんだよ。」
  • しかし、事務員の心のざわつきは収まりません。嫌な予感がします。
  • 1分の経たないうちに、また電話が鳴ります。
  • 事務員が電話をとります。同じ申出人からです。開口一番「ふざけんじゃねえ。3回目だぞ!もう電話を切るんじゃねえぞ!こっちは用があって電話してんだ。誰だお前は?」
  • 事務員は必死に答えます。「〇〇営業所の〇〇です。あの……お客様……」
  • 申出人は言います。「おお、さっきの嘘つき女か!もう噓をつくんじゃねえ!もう電話を切るんじゃねえぞ。〇〇さんだな。その名前もう忘れねえぞ。電話代はこっちが払ってんだ。わかってんだろうな。会議なんて口からでまかせ言ってねえでさっさと所長に代われ!お前には用はない!」
  • 隣で様子を見ていた男性係長は、少し躊躇しながら、やはり電話を切れのジェスチャーをします。しかし、事務員はこの電話を切るとますます悪いことが起きそうな予感がして、電話を切る勇気が出ません。どうしたら良いか分からなくなってしまいます。

《適切な対応》
乱暴な話し方に惑わされない ▶ 冷静に「用件」を尋ね続ける

乱暴な話し方をされても、申出人がクレーマーかどうかは分からない

  • 乱暴な話し方をして折衝担当者の余裕を奪うというやり口。皆さんおなじみです。このサイトの【基礎編】クレーマーの常套手段/Categ.①余裕を奪う/常套手段①-01で詳しく対応策が記載されています。この常套手段には折衝を打ち切れば良いのです。さらに所長に代われ言う申出人は常套手段①-06で責任者と呼べ!と言って会話に応じないというクレーマーであるように感じられます。こちらの常套手段への適切な対応は[上司に代わらない]です。二つの常套手段の合わせ技なので、所長に電話をつなぐ必要はなく、折衝を打ち切るために電話を切ればいい。と傍らの男性係長は思ったようです。女性事務員もそう教わっていて、そのように電話を切っています。でも、それはちょっと判断が早すぎたようです。
  • クレーマーは折衝担当者の余裕を奪うためにいろいろな常套手段を使いますが、今回のケースで申出人は、そもそもクレーマーだったのでしょうか?所長に電話をしている。取り次いでくれと言っているだけです。そういう電話そのまま所長につないではいけないことはビジネス上当然の配慮ですが、所長に電話をしてきた人が全てクレーマーというわけではありません。所長の大学の先輩が近くまで来たので飲みに行こうと後輩である所長に電話をしてきたのかも知れません。もちろん、このケースはそういう話ではないのですが、この時点ではそういう可能性もあったのです。
  • この申出人がクレーマーなのかどうか?どう判断したらよいのでしょう?まずは、このサイトの【理論編】構造的理解で紹介しているモデルに当てはめて考えてみましょう。

申出を【理論編】構造的理解のモデルに基づいて判別する

  • 申出人の不満はおしゃられないので全く分かりません。申出人の要求もよくかわりません。所長に直接話そうとしているようです。そうでないかも知れません。単に所長と話をしたいという要求なのかも知れません。何がなんだか分からない状態です。
  • 何が不満なのか、何が要求なのか分からなければ、満足させてはいけないクレーマーなのか満足していただかなければいけない顧客なのかもわかりません。どう対応してよいのか判断ができません。通常であればここで、このサイトの【実践編】即効テクニック/Stage③傾聴に徹する/テクニック③-2で解説しているように、「期待メリット」「獲得メリット」「不満」「要求」の4つの要素を聴き出します。
  • でも、この申出人は傾聴を許してくれません。本当の「不満」「要求」が分かりません。そのような場合は、目下の、とりあえずの、「不満」と「要求」を【理論編】構造的理解のモデルに当てはめて対応します。
  • 電話を切らずに折衝を続ければ申出人から罵詈雑言を浴びる続けることになりますが、クレーマーなのか大切な顧客なのか分からない段階でクレーマー対応をして電話を切るわけには行きません。このサイトの【導入編】3のの心得/心得②を参考にして、自分は役を演じているんだと割り切って、乱暴な言葉を一旦スルーします。

目下の「不満」と「要求」に限定すれば理不尽

  • 本当の「不満」と「要求」はさておき、目下の申出人の「要求」は「所長と話をさせろ」です。目下の申出人の「不満」は「所長と話をさせろと言っているのに話をさせてもらえない」です。不満の前提となる「期待メリット」は「所長あてに電話をすれば繋いでもらえるはずだ。」です。「獲得メリット」は、「所長に繋いでもらえない。話の途中で電話を切られる。」です。
  • 何が過剰かと言えば、「所長あてに電話をすれば繋いでもらえるはずだ。」という「期待メリット」です。名前も名乗らず、要件の言わず、「所長を出せ」と電話をして、はいはいと所長が電話に出てくる会社がどこにあるのでしょう?全く非常識。理不尽。よって、「不満」も「要求」も理不尽です。
  • とりあえずですが小粒の「クレーム」誕生、よって申出人はとりあえずの「クレーマー」です。このサイトの【実践編】即効テニックのステージとしては、「Stage④相手を見極める」が終ったということです。次は、Stage⑤⑥をスキップして「Stage⑦対応策を決定する」です。

どうすべきかを決める

  • このサイトの【導入編】3つの心得/心得③で説明していますが、ここでどうすべきかを決めてしまいます。決めるための十分な材料はそろっています。
  • このケースの場合は、どうしたら良いかは誰が考えてもそう変わりません。
    • 申出人の電話を誰が受けるべきか判断でするために必要な情報を貰う。
    • その情報に基づいて誰が電話を受けるのが適切かを決める。それが所長であれば所長に電話を繋ぐし、所長でなければ所長に電話を繋ぐことはない。
  • 必要な情報とは、申出人の「お名前」と「ご用件」です。当たり前な話になりました。
  • 対応が決まれば、次はこのサイトの「【実践編】即効テクニック/Stage⑧結果を提示する」です。

決めた対応を申出人に提示する

  • まず、電話を受けて言うべきことは、「お客様のお名前をお聞かせ下さい。ご用件をお聞かせ下さい。」です。これを言わなければ話になりません。
  • 申出人は構わずに怒鳴るでしょう。「そんなこと、ごちゃごちゃ言ってねえでとっとと所長に代われ、馬鹿野郎。」
  • そこで、ある意味、満を持して、決めた対応を申出人に示します。「そうはおっしゃれましても、お名前もご用件もおっしゃっていただかなければ、私も誰がお客様のお話をお聞きするのが適切なのかがわかりかねます。誰にお繋ぎするのが適切か分からないお電話は誰にもお繋ぎすることができません。改めて、お客様のお名前とご用件をお聞かせ下さい」
  • このように、会社側の対応を明確に申出人に伝えなければ折衝になりません。申出人が提示された適切な対応を受け入れずに、なお過剰な要求を続けるのであれば、それはもう折衝決裂なので、その状況になってから電話を切れば良いのです。
  • そして、多くの場合、このように明確に会社側の対応を繰り返して伝えれば、女性事務員に対して申出人は名前と用件を言い始めます。そして、ほとんどの場合、それがきっかけになって、申出人は言いたいことを全て話し始めます。風呂敷を一回ほどいたら全部広げてしまうというイメージです。少し長い電話になるのですが、女性事務員はこのサイトの「【実践編】即効テクニック/Stage③傾聴に徹する」のテクニックを使うことになります。
  • そして、とりあえずの「不満」「要求」は消えてしまい、申出人はとりあえずの「クレーマー」ではなくなります。そして、本当の「不満」「要求」が姿を現します。
  • どんな「不満」「要求」が出てきたかは【クレーム事例:007】で詳しく解説します。