テクニック⑤-1:申出人の人間性にかかる良い面だけを、幾つも見つけて心の中で言語化する

  • 申出人がクレーマであればなおさら、あなたは申出人の人間性の良い面など見つける気がしないかも知れません。人として許しがたい悪い面ばかりが気になって、良い面など一つもないと言いたくなるかも知れません。しかし、あなたがそんな気持ちになっていれば折衝がうまくいくはずがありません。あなたが申出人を毛嫌いしているのです。申出人もあなたを毛嫌いしているに違いありません。そんな関係で折衝を続けていると、申出人はどんどんあなたが思うような悪者になってしまいます。
  • まず、申出人の人としていただけない面は無視します。言語化もしません。言語化するとあなたの頭に残るのでそれすらしません。
  • 良い人間性が匂う部分だけを注意深く見つけます。見つけたら、必ずそれを心の中で言語化します。
  • 例えば、「ご家族を大切にされる愛情豊かな人」「思ったことをストレートに言う裏表のない人」「道理を大切にする筋の通った人」「法律に詳しく違法なことを嫌う人」「強きをくじき、弱きを助ける人」「不当な事には黙っていられない正義感の強い人」「人から嫌がられても言うべきことを言える勇気のある人」というように言語化します。これをあなたの心の中で行うのです。
  • この良い面の言語化を最低3つ行います。5つ以上できれば十分です。そして言語化した言葉はありきたりな褒め言葉ではなく、オーダーメイド感のあるオリジナリティを感じさせるものであればそれだけ有効な武器になります。この武器の仕込みが、その後のあなたの折衝に幅を持たせます。

テクニック⑤-2:最終的に円満に折衝を終える布石となるような申出人のキャラを作る

  • あなたは、折衝担当者として申出人との折衝をまとめ上げることが仕事です。そして申出人は、合理性を踏み外した過剰な要求をして来ているクレーマーだとします。さて、あなたはどように折衝を終えることができるとイメージしていますか?
  • あなたが理路整然と申出人を論破してギャフンと言わせ。申出人が「恐れ入りました。私が悪かったです。私がはき違えた料簡から間違った要求をしてご迷惑をかけました。撤回させて下さい。」と改心して、クレーマーではない普通のお客様になることをイメージしているのであれば、そのようなことはまず起こりえないと覚悟して下さい。しかし、それに近いことを起こすことは不可能ではありません。
  • 「合理性を逸脱した過剰な要求は、実は申出人の本心ではなく、つい勢いで口にしてしまったが、本当はそんなことを求めていたわけではなく、申出人の………な人柄から………ということを注意した方が良いのではないかという気持ちを抑えられず、会社に伝えたかっただけだ。いくつかの誤解があって話がこじれてしまったが、申出人は善良な顧客であって、けしてクレーマーの類ではない。」という物語が成り立った時、あなたは折衝を円満を終えることができるのです。
  • この円満解決に応じてくれるとしたら申出人はどんなキャラであれば良いか?それを先に言語化した申出人の良い面を組み合わせて作り上げるのです。
  • 例えば、「強きをくじき弱気を助ける性格で、問題点を見つけると黙っていられない性格で、物言いがはっきりしているので喧嘩っぱやいと誤解されやすいが、実は道理を大切にする筋を通す人。でも、勢い余って誤解したまま突っ走ってしまうところもある。」というある意味魅力的なキャラを作ります。本当にそういう人であれば、いくつかの誤解を解けば、納得して自ら過剰な要求を取り下げ、ああ良い人だったね。という物語が成り立ちます。本当にそういう人であればの話です。

テクニック⑤-3:作り上げたキャラを申出人に刷り込む

  • あなたは、申出人が本当に円満解決に応じてくれるキャラであったら良いと願うのかも知れませんが、人のキャラというのは固定化したものではありません。本当にそういうキャラの人にしてしまえば良いのです。まして、このキャラを作るために申出人を観察して、良い人間性の要素を抜き出しているのです。架空のキャラではありません。
  • 人は、誰もが悪者にはなりたくありません。ただ、それぞれの立場でそれぞれの「正義」を振舞っています。申出人が過剰な要求をするクレーマーになっている時でも、申出人は申出人なりの世界観で道理を貫くキャラを演じています。「客に適当な対応をする阿呆で欲深な会社の駄目なところを突いて懲らしめている。」というような物語の中でクレーマーを演じていると思って下さい。
  • そして、このクレーマとなっている申出人が囚われている物語を、より魅力的なものに切り替えることができれば、申出人はクレーマーを演じるをのやめて善良な顧客を演じるようになると思って下さい。
  • 申出人がより魅力的な物語を演じるキャラをあなたはすでに用意しています。そのキャラを申出人に信じさせることが出来れば良いのです。
  • そのために、あなたが言語化した申出人の魅力的な人間性を、会話の至るところに自然に挟みます。
  • 「俺はそういうことが許せないんだ。」「おっしゃる通りです。お客様は筋を通される方ですね。お話をしていて良くわかります。」
  • 「どうなんだ。今ここで答えろ。」「お客様、ぐずぐずせずに白黒をはっきりスパンとつけたい真直ぐな方ですね。そのお気持ちわかります。私もそうありたいと思っています。ただその前に、ハッキリと事実確認をさせて下さい……」
  • この「お客様は……な方ですね」を肯定的なニュアンスで会話に挟みます。この「……」のフレーズが大切です。気の利いた言語化です。あなたは事前にこの気の利いたフレーズを幾つも準備しているので、会話中にすかさず入れ込むことができます。
  • 自分の良い点を、いままで自分では思いつかないような気の利いたフレーズで言語化してもらえると、誰でも嬉しくなります。そして、そにように言語化したあなたの眼力を信じたくなります。そして、そのような気の利いたフレーズをもっと聴きたくなります。
  • そのように申出人の良い面だけを表現するフレーズを複数回会話に挟む込んで申出人の心に刷り込むことで、申出人はそのフレーズ通りの良い人間性のキャラを演じるようになります。
  • このテクニックはいつも成功するとは限りませんが、あなたが想像するよりもビックリするほど高い確率で成功します。試して損はありません。