常套手段③-01:些細なことを会社の基本的な体制・姿勢の問題にする。

  • とても些細なこと。例えばネット上の申込でエラーが発生したため、営業担当者が訪問してリカバリーしようとしたが、その際、訪問した者がお客様がどんな入力をしてエラーになったのかは把握していなかった。とか。
  • 実務上、訪問して改めてお客様の要望を確認して適切な処理をするのですから、エラーとなった入力情報など、知っておく必要はありません。しかし、なんでも大袈裟にしたい申出人はそこを咎めます。
  • お客様が入力した情報を連携すべきだ。そのようにシステムを構築すべきだ。そうでなければお客様に二度手間をかけさせることになるので失礼だ。そのような失礼な対応はお客様をないがしろにするものであって許せない。俺の言うことに間違いがあるなら言ってみろ。
  • あなたは、申出人が何を言っているのかよく理解できません。ただ、正論を言っているかに聞こえる話し方をされます。細かい疑問点を取り上げて禅問答みたいな反論を戦わせるのは良い折衝ではないと考え、あなたは「お客様のおっしゃることはごもっともで、誠に申し訳ありません。」と、まず共感を示してしまいます。
  • 申出人はかさにかかって、正論を装う無理難題を被せてきます。あげく、会社としての正式な謝罪文書とか謝罪の印?とかを要求します。
  • あなたは、共感を示してしまった以上手のひらを反すような対応をしづらく、申出人の言う正論にも一理あるような気がしてしまい、普段のような切れ味の良い対応ができなくなります。
<対応策>
  • 申出人の論法は、一見正論に見えるもののよく考えれば極論です。しかし、その極論の問題点を指摘して反論するのも無駄な問答になってしまう。というあなたの最初の感覚は正解です。だからと言って、共感してお詫びする必要もありません。正論めかした良く分からない話には反応しないでスルーすれば良いのです。
  • やるべきことは、正論めかした極論を論破することではなく、申出人のお困りごとを解決することです。ですから、申出人のお困りごとが何かを明確にする。ということに集中すれば良いのです。たとえ、あなたが一旦、お客様の極論を正論と認めてお詫びしていても気にすることはありません。
  • 「なるほど、そのようなお考えもあるかと思いますが、まずは、お客様の目下のお困りごとを解決させて下さい。お困りごとは……ということでしょうか?」と言い続けて、正論ごっこには付き合わないという姿勢を崩さなければ良いのです。
  • 「まずは、お客様の目下のお困りごとを解決させて下さい。」に勝る正論はありません。

常套手段③-02:「不手際を隠した」、「放置した」などと二次的な対応を問題にする。

  • 申出人が最初に咎めたことが些細な場合、申出人は問題を大きくするために二次的な対応に焦点を当ててくる場合があります。
  • 「俺が先週電話で〇〇の不具合について原因を調べて報告すると言ったのに、もう1週間たっても報告がない。どういうことか?」という申し出になります。でも、あなたはそんな約束をした意識がありません。周りの人に聞いてもそういう約束をしたという意識がありません。誰がそんな約束をしたんだろう?確かに報告すると言って報告しないのはまずい。どこかで会社側のだれかが失敗をしたのではないかと気になります。
  • 「申し訳ありません。確認させていただきますが、1週間前とおっしゃいますと先週の火曜日、17日にお電話をいただいたということですね。お電話を受けた者は……」「何をごちゃごちゃ言っとるんじゃ。正確な日にちなんか覚えてない。そっちに記録があるだろう。で、一週間お前んとこは何をしてたのか?放置か?お客様を放置か?」
  • あなたは、何が何だか分からない状態で頭ごなしに怒鳴られます。こちらの不手際かも知れないという気持ちがあって、毅然とした対応がとれず、ひたすらお詫びするしかなくなります。この弱い立場は、新たな過剰な要求を飲まされかねない危険な状態です。
<対応策>
  • 自分を含めて自分の会社の全ての人が完璧なわけではないので、うっかりミス、不手際がある可能性はいつも頭によぎります。でも、それを確認する余裕を与えられずに畳みかけられると、どうしても苦しい対応になってしまいます。
  • 申出人の立場からすれば明確な不手際は追及しやすいし、「お客様に接する心がけがなっていない」とか「顧客情報をいい加減に扱っている」というように話を大きくしやすいので、悪意をもってそちらに誘導される場合もあります。
  • 悪意を感じるこのような申出には、仮定をつけて大袈裟にお詫びします。「もし、報告するというお約束を失念していたとすれば、それはとんでもないことでございます。当社の誰の不手際であろうと、私が代わりまして深く詫び致します。」
  • 仮定をつけたお詫びであれば、いくら大袈裟いお詫びしても本当のお詫びにはなりません。後で言質を取られる心配もありません。あなたの心の負担も軽くなります。それでも、会話の中で丁寧なお詫びの言葉が伝えられると、ちゃんとお詫びした空気になります。
  • そして続けます。「どのような経緯で不手際となってしまったのか、社内で確認いたしますが、少々お時間をいただくこととなります。それよりも、お客様のお困り事のを速やかに解決させていただきたいと思います。どのようなお困り事だったのでしょうか?」と言います。そうすると、「それは、前に話した。お前んとこに記録があるだろう。また話させるのか。ふざけてんのかお前。」となるのですが、気にせず。「左様でございますが、社内の記録をたどるよりも、今こうしてお話をさせていただいてるので、お話いただけるとより早い対応ができると考えたものですが、一旦社内で調査いたしまして、その結果を改めて〇〇〇までにお電話でご説明させていただきます。」でおしまいです。
  • 一旦、社内で調べる時間を確保できれば十分です。調べてみれば、あなたの会社の同僚がそんな出鱈目なことをしている訳がなく、申出人が言う通りではないという事実が分かるので、改めて電話をする時には一方的に畳みかけられることはありません。
  • ここでも、「まずは、お客様の目下のお困り事を解決させて下さい。」という正論が生きるのです。こちらの不手際の原因を調べるより、お客様の目下のお困り事を解決する方を優先するという正論が、申出人の矛先を鈍らせるのです。

常套手段③-03:過剰な逸失利益(所得機会喪失、精神的損害)の補填を要求する。

  • 「お前んとこがボケているから、おれはこうして手間をとらされている。そのことはどうしてくれるんだ。」と言って、交通費・仕事が出来なかった分の損失・慰謝料などを求められる場合があります。
  • 確かに申出人へのご案内が不十分な点はあったかも知れません。ベストな案内であれば申出人の負担は軽かったかも知れません。因果関係をたどれば、余計な出費、所得機会の喪失、精神的損害……とつながらないとは言えません。正論のようにも聞こえます。
  • 論理的につながる。正論に聞こえる。過剰な要求のような気がしますが、些細とはいえきっかけがあなたの会社の不手際であれば、あなたは毅然と断ることに躊躇してしまいます。この逸失利益は正確に計算するといくらになるのか?とあなたが頭の中で思いめぐらした時点で、あなたは申出人が仕掛けた常套手段の罠にはまりかかっています。
<対応策>
  • 何かの損害が発生した時、被害者がその全てを被るのではなく、その原因を作った人たちも損害の補填に協力しましょう。という話なのですが、風が吹けば桶屋が儲かるというように因果関係をたどると、たまたまその日に雨が降ったからとか、そもそもその人をお母さんが生んだからとか、限りなく広がります。結局、因果関係を語るうえで大切なことは、どこで因果関係の話を打ち切るのが妥当か?ということです。
  • 過剰な逸失利益を要求する申出人は、この因果関係の打ち切りを自分に都合の良いところまで広げます。
  • あなたは、申出人が勝手に作った因果関係の範囲(打ち切りの見極め)に囚われる必要はありません。あなたが、社会的な常識に基づいてどこで因果関係を打ち切れば良いか判断すれば良いです。
  • この時、第三者(世間様)がどう感じるかという観点で、補償すべき因果関係の範囲をや補償の程度を決めれば良いのです。第三者の視点で、粗品のタオルを持って伺う程度が妥当と言うことであれば、そこまでで良いのです。
  • 申出人が過剰な逸失利益の補填を要求してきても、「そこまでのお話ではありません。現場の責任者として私が本日、ご自宅に伺ってお詫びをさせていただきます。」と言って、粗品のタオルを渡すので十分だというのが第三者(世間様)の感覚であれば、そうするだけで十分です。
  • それに申出人が納得しなければ、それは世間の常識をわきまえない申出人が、世間の常識をわきまえている善良なあなたの会社を困らせているという構図になるので、それ以上何もする必要はありません。