【クレーム事例:002】Web申込時の入力情報が十分に生かされていないと言われ……
《事例概要》
些細な手続きに不満 ▶ 営業員を事実上監禁・説教 ▶ 複数部署と交渉・説教
- インターネットで金融商品を販売する会社へのクレームです。その会社はお客様の資産運用に関するご希望を入力してもらい、お勧めの商品を表示し、商品が指定されると、住所・氏名・メールアドレス・電話番号・クレジットカード番号を入力して注文が成立します。
- 途中で操作を中断したりエラーになって注文が完結していないデータが残っていれば、営業員が電話またはメールでお客様と連絡をとり、ご要望があれば訪問して商品を説明の上、了解をいただければ契約をするというビジネスを行っていました。
- いつものように、注文が途中でエラーになったお客様に女性の営業員が電話をして、訪問の上での商品説明を希望されたため、二人の女性営業員が昼過ぎに訪問しました。しかし、夜の19時になっても二人の女性営業員が営業所に戻ってきません。営業所長が営業員に連絡をすると、お客様からお叱りを何時間も受けていて、帰してもらえない、途中での営業所への連絡も許されなかったとのこと。お客様は40代前半の独身の男性。今、お客様が本社のお客様相談室の男性社員を電話で怒鳴りつけているところなので、所長の電話を受けることができたとのこと。
- お客様のご不満は、訪問した営業員が、エラー処理されたとは言え自分がWeb上で途中まで入力した内容を把握していないということ。本来であれば、途中であっても入力した情報を踏まえて、お勧めの商品の設計書を準備して訪問すべきだ。とのこと。会社としてのサービスの在り方に問題があり、そのように営業員を子どもの遣いのように使う会社には我慢ができない。とのこと。
- お客様は先ほど、会社のサービスセンターに電話をして、そこの女性オペレーターにも延々と説教をし、上の者を出せと言いだし、サービスセンターのオペレーターが深刻な苦情の対応を受付けるお客様相談室に電話を転送し、お客様はお客様相談室の男性社員に文句を言い始まているところだとのこと。
《適切な対応》
社員の安全確保 ▶ 要求の合理性を確認 ▶ 理不尽な要求には応えない ▶ 折衝窓口を一本化
社員の身の安全確保が最優先
- クレーム対応以前に、社員の身の安全確保が最優先です。事実上、二人の女性営業員が40代前半の独身男性の自宅に監禁されているのです。
- 営業所に連絡担当者を置いて、男性二名(営業所長・係長)で申出人の自宅に向かいます。連絡担当者は、本社のお客様相談室に最新の状況を知らせ、申出人と電話で話をしているお客様相談室の男性社員が十分な情報を持って申出人との電話応対ができるようにします。
- 営業所長は、申出人の自宅前に係長を待機させ、状況が悪化した場合に警察に連絡をする指示をして、申出人宅を訪問します。
- 営業所長は申出人に対して、まず二人の女性営業員を帰すこと、代わって現場の責任者である自分が話を伺うと言います。それに応じていただけない場合は、警察に連絡することになると伝えます。申出人は警察沙汰にするつもりはないので、営業所長の要求を受けます。
- これで、社員の身の安全は確保できました。そのうえでのクレーム対応です。
申出人の要求は何か?
- 申出人と初対面で話す営業所長は、まず冒頭の15分程度は申出人の言い分を聞きます。
- 申出人の言い分を聞きながら、この申出人の要求は何か?を探ります。そしてすぐに気づきます。この申出人には要求がない。
- 申出人は延々とまくしたてます。会社の情報管理、顧客サービスの在り方、Webと訪問を融合した営業スタイルの在り方、現場の営業員への支援の仕方、などをとうとうと説き、「お前の会社は出鱈目だ。そんな会社は潰れてしまう。最低だ。サービスセンターのオペレーターの対応もなっていない。お客様相談室の男性社員も俺の話が理解できるのかできないのか曖昧な対応で手応えがない。あいつは阿呆だ。本社が出鱈目でさっき来た営業の女性も可哀想だ。いつも現場の人が苦労するんだ。お前、営業所の責任者だろう。どういうつもりだ。お前も阿呆か。」と威圧的に強く非難するのですが、だからと言って、個人情報の扱いが不適切だから謝罪金をよこせと言うわけではなく、俺の時間を無駄に使わせたのだからその分の金を補償しろと言うわけでもないのです。
- 不満をたくさん言うが、要求を一切しない申出人です。要求がなければ、苦情でもクレームでもありません。
不満は合理的か?
- この申出人の「提供メリット」は、ほぼゼロです。料金を一切払っていないからです。時間を取ったとも言えません。営業員が粘って申出人の時間を奪ったのではなく、申出人が営業員を帰してくれなかったのですから。
- 「提供メリット」がゼロの申出人ですが「期待メリット」はかなり高いです。一度Webで入力したてエラーになった内容など、正しいかどうかも分からい情報を拾って、対面前に申出人にピッタリな商品設計書を作っておくことを期待しているのです。エラーになったWeb入力よりも、実際に訪問して情報を口頭で確認すれば済むものです。また、事前にWebで入力したと言っても何十項目も入力したわけではありません。対面時に口頭で言ってもらっても負担にはなりません。まして、今回の申出人は、自分が何を入力したか覚えていないと言うのです。それなら、なおさら対面時に確認すればよいのです。申出人の「期待メリット」は明らかに合理性がありません。
- 合理性のない「期待メリット」に基づいて膨らんだ不満に合理性がありようもありません。もはや、申出人が言っていることは、居酒屋で酔った客が語る政治談議、経済談義と異なるところがありません。「首相は馬鹿だ。このままじゃ日本が駄目になるぞ。」と同じトーンで「お前の会社は駄目だ。このままでは潰れてしまうぞ。」と言っているのです。
礼儀正しくノリの悪い対応でその場を切り上げる
- 営業所長は、不満に合理性がないこと。具体的な要求がないこと。を見極めたら、礼儀正しく、何も合意せず、何もお詫びせず、まして文句も言わず、さっさとその場を切り上げれば良いのです。
- 申出人に何を説明する必要もありません。何かを説得したり、何かの了解をもらったりする必要はありません。
- その場を早く切り上げるコツは、申出人を気持ち良くさせなければ良いのです。「おしゃる通りです。」「ごもっともです。」という言葉は申出人を気持ち良くさせてしまうので口にしません。「そうですか…」「そうお考えなんですか…」「人によって考え方が違いますからね。」「会社によって考え方はいろいろだと思いますが、当社はそういう会社ではありませんね。」と、礼儀正しく、ノリの悪い、調子を崩す対応を続けます。
- そういうザラっとした対応を続けていると、申出人は機嫌が悪くなりますが、話していて面白くないので営業所長は解放されます。
対応すべきことはただ一つ。折衝窓口を営業所長に限定する
- 営業所長は申出人宅からの立ち去り際にこう宣言します。「本件につきましては、現場の責任者である私が対応させていただきます。何かありましたら、直接私におっしゃられて下さい。」
- 申出人への対応はこれで十分です。
- 翌日、出社してきた二人の営業員には精神的なフォローをしながら、この申出人とは今後一切接触してはいけない。電話に出てもいけない。メールに返信してもいけない。電話があった、メールがあったという事を営業所長に伝えるだけでよい。うっかり電話に出てしまった場合は、「お客様とのお話は営業所長がお受けすることになっています。営業所長にお電話があったことを伝えます。」と言い、なんでも理由をつけて電話をする切るようにと、指示を徹底します。そして、その方針を、サービスセンター、お客様相談室にも徹底します。全社をあげて、折衝窓口を一つにするのです。
- 営業所長は、その後何度か申出人からの電話を受けるかも知れませんが、いつも礼儀正しくノリの悪い対応を繰り返していれば良いのです。そのうち電話もかかって来なくなります。