【クレーム事例:011】お客様の操作による故障なら修理は有料とご案内したら詐欺と言われた……
《事例概要》
不具合な製品への保証対応に不満 ▶ 詐欺だ!と怒鳴られる
- 申出人Xは40歳前後の男性です。家電量販店でUSBハブを購入していました。
- 20日後に再び来店した申出人Xは店員Aに言います。「これ、繋がらない。最初は繋がったんだけど、一週間ぐらい前から繋がらなくなった。うちのPC側に問題があるとは思えないのだが、どうしたら良い?」
- 店員Aは答えます。「最初は正常に動いていたということは、ご購入時点では製品に不具合はなかったということだと思われますが……、お客様、何か落としたとかぶつけたとか言うようなことはございませんか?」
- 申出人Xは答えます。「こんなハブだからね。落とすとかぶつけるってことはないよ。うまく繋がらなかったから、何度も抜き差しはしたけどね。最初はそれで繋がった時もあるけど、そのうち全然繋がらなくなったんだ。」
- 店員Aは言います。「その抜き差しの時に、PCの電源は落としていましたか?それとも、メディアの取り外しを安全に行う操作をされていましたか?」
- 応答は続きます。「一々電源を落としてないよ。そのメディアの取り外しの操作って何?」「PCの画面の右下にUSBメモリーのアイコンをクリックされると、外部メディアを取り外して良いかを確認して、その段階で取り外すと指示を出されると取り外しができるようになります。」「それをしないとどうなるの?」「不具合が生じることがあります。」「それで、駄目になったの?」「そうかも知れません。」「それで、どうしたら良いの?」
- 店員Aは言います。「お客様の操作に問題があって故障したということであれば、私どもでは保証しかねます。」「保証しかねるってどういうこと。修理して貰えないの?買ったばっかりなのに。」
- 店員Aは言います。「誠に申し訳ありませんが、お客様の操作による故障であれば、修理は有料となります。ただ、この手の修理には購入代以上の費用がかかります。これを修理されるというのであれば、新たに購入された方がお安くつくと思います。」
- 申出人Xはついに怒りだします。「なんか、おかしいだろう。あなたの言っていることは。不具合があったからどうしたら良いかと聞いたら、また買い直せっていうことか。そしてまた不具合があったらどうするんだ。私はくじを引かされているのか。この値段だ。あなたが買い直せというのなら、1回なら買い直してもいいよ。でも、絶対にもう故障しないって保証できるのか?あなたは!」
- 店員Aは困ります。「保証しろと言われましても、それはできません……」
- 申出人Xの怒りは爆発します。「ふざけるな!それじゃあ、くじを引かされているのと同じだろう。あなたの店はそういう店なのか?じゃあ、ここにある商品の値札は販売価格じゃなくて、くじ引き価格って全部書き直せよ!じゃなかったらあなたの店は詐欺をしているんだ。あなたは詐欺の店に勤めて詐欺に加担しているのか!」
- 周りの来店客も驚いて振り向きます。店員Aは慌てて言います。「そういうことを申し上げているのではありません。大きな声を出されるのはおやめください。お客様誤解です……」「誤解って何が誤解なんだよ!詐欺だろう!」申出人Xの怒りは収まりません。
《適切な対応》
申出を歓迎 ▶ 共感してお詫び ▶ スマートな対応を提案
顧客からの申出は厄介事ではない
- 店員Aの立場に立てば、申出人Xも申出を待っていたわけではなく、今日の仕事の段取りが頭の中にあって、何かの仕事を時間を気にしながらやっている訳です。申出人Xへの対応が長引けば仕事の段取りを崩さなくてはならず、そのために上司から叱責されるかも知れない。という状況であったのかも知れません。
- 事例概要での店員Aにとって申出人Xからの申出は、突然降って湧いた厄介事に感じられてしまったのでしょうか?早く片づけたいという気持ちが出ています。いきなりトラブルの原因分析、事実確認を行っています。顧客の勘違い・操作ミスであれば、返品・修理・保証の話にならなくて済みます。すぐに解決します。そうであって欲しいという気持ちがなかったとは言えません。
- しかし、店員Aが自分を最高の店員を演じている役者だど思っていれば、顧客の申出は最高の店員のスキルを発揮するチャンスです。歓迎する気持ちで接することができます。「【導入編】3つの心得/心得②:私は役を演じているだけ」で説明した心得は、クレーマーに対する防御的な心得であるだけでなく、顧客に対するより良いサービスを提供する心得にもなります。どんなに余裕がない時でも、最高の店員という役を演じていれば余裕を取り戻すことができます。申出人Xからの申出を受けた最高の店員が最初にすることは事実確認ではありませんでした。
「共感」して「傾聴」することから始まる
- まず「お詫び」をするのだとクレーム対応のテクニックとして紹介されることが多いです。形として結果的にそうなるのですが、本当に最初にすべきことは「お詫び」よりも「共感」です。「お詫び」は「共感」の結果として自然に出るものです。さもなければ何に「お詫び」しているのか分からない空々しい「お詫び」になってしまいかねません。勘の鋭い申出人だと「お詫び」の空虚さを指摘されかねません。
- まず「共感」です。「共感」しながら自然にお詫びをして「傾聴」です。「【実践編】Stage③傾聴に徹する/テクニック③-4」で説明していますが、共感なくして傾聴なしです。店員Aは申出人Xが何に困っているのかを知ろうとすれば、申出人Xの申出に対して最初の言葉は、「販売した時点では正常だったはず」という自分の立場の主張ではなかったはずです。第一声が「それは、お困りですね。」です。何かをする必要があって申出人Xは商品を購入したのです。それがうまく動かないとなれば、申出人Xは何かに困っているはずです。この「それは、お困りですね。」と共感すればその次は続けて、自分たちから折角購入していただいた商品で困り事を生じさせてしまったことへのお詫びの気持ちが自然に出ます。「申し訳ありません。」となります。そして、販売員Aは知りたくて仕方がなくなります。どれぐらいお困りなのか?どんなご迷惑をかけてしまったのか?「お急ぎのお仕事に支障が生じているのでしょうか?」というような事を申出人Xの様子を見ながら確認します。もし、今日中に何か大切な仕事をする上で必要なことがあるのであれば、なんとかして差し上げたいという気持ちが湧きます。
- 申出人Xは言います。「今日、明日ということではないんだが……」
- 店員Aは少しほっとして言います。「ああ、それは少し安心しました。しかし折角ご購入いただいたハブが動かないのではいけません。ご使用時の状況を詳しくお教えいただけますか。」
- このように折衝を始めていれば、故障の原因は製品かお客様かという話にならずに済んだはずです。もともと店員Aもそういう責任問題にしたいと思ってはいなかったのに、共感なくして事実確認、原因分析のモードに入ったため、修理が有償か無償化かとい一般論になり、申出人Xの気持ちを硬化させ、くじを引くみたいで詐欺だ!という屁理屈を口に出させてしまったのです。
- 申出人Xはそんな屁理屈を言ってお店を困らせようと思って来店したのではありません。購入したUSBハブがうまく動かず、その原因も分からないし、どうしたら良いのか分からないので相談に来ただけです。屁理屈を言い出す前は、要求らしい要求をしていません。申出人Xはどういう要求をすべきか分からないのでそれを聞きに来たのです。心の中では、故障していない新品と交換か、無償での修理か、でも修理期間が長いは厭だな。ぐらいしか考えていなかったのです。
やるべきことは申出人を「満足」させることであって、申出人が口にした「要求」に応えることではない
- 多くの折衝担当者は、申出人の要求に応えれば申出人は満足するんだと考えがちですが、実はそうではありません。そもそも多くの場合は、この事例のように申出人が漠然としたイメージの要求しか持っていない状態で折衝が始まります。
- 申出人の心の中で曖昧な状態にある要求を、「お客様は何をお望みですか?」などと明確にすることを迫るのは害あって益なしです。申出人にストレスをかけることになり、問い詰められたと誤解した申出人が思い付きで感情的に過剰な要求すると、その時点で申出人を「クレーマー」にしてしまうからです。
- 「【導入編】3つの心得/心得③」で説明しています。「【実践編】即効テクニック/Stage⑦対応を決定する」でも説明しています。少し極論に聞こえるかもしれませんが、折衝担当者である店員Aがやるべきことは、申出人Xの要求を聞いてそれに応えることではありません。申出人Xが抱く合理的な不満を解消するための合理的でスマートな対応を提供することなのです。申出人Xが口にしてた要求が合理的でスマートであるとは限らないのです。申出人Xが漠然とイメージしている以上に合理的でスマートな対応を提案されたときの申出人の気持ちを想像してみてください。満足以上の感動があるかも知れません。
合理的でスマートな対応を考えて提案する
- 申出人Xは、「店の値札にくじ引き価格と書け!」という思い付きの滅茶苦茶な要求をする前は、新品との交換か無償の修理ぐらいの対応を期待していたのです。滅茶苦茶な要求は気にせずに、より合理的でスマートな対応を考えます。
- まず店員Aは、本当に不具合かどうかを店の機器で確認します。そうすれば、USBハブの不具合なのか申出人のPCの不具合なのかが特定できます。申出人Xはそれを知りたがっていたはずです。
- その結果、申出人Xの言うとおりにUSBハブに不具合があることが分かれば、その原因など調べるのではなく販売店のルールに基づいてどこまで対応できるか考えます。購入後1か月以内であれば、補償期間の話以前に「機器の初期不良」として新品と交換できるルールがあったと気づきます。購入者が踏みつけて壊したとか、水没させてしまったとか、購入者が招いた故障でない限り新品に交換できます。申出人Xのミスで故障したという明確な事実が確認できなければ「機器の初期不良」として扱えば良いのです。
- 店員Aは交換できる新品の在庫があるかどうか確認します。在庫があれば新品に交換することを申出人Xに提案すれば良かったのです。新品の在庫がなければ、在庫を取り寄せるか、同価格程度の他の製品に変えていただくなどの柔軟な提案をします。また、新品の入荷が後日になる場合は郵送でお送りすることを提案します。販売店で許されるルールの中で出来る限りの対応を工夫していろいろ提案する姿勢に、申出人Xは満足するはずです。このような提案を店員Aから次々に受けていれば、申出人Xは滅茶苦茶な要求をしてクレーマーになることは無かったのです。