【クレーム事例:009】事実を伝えたら過剰な要求を突きつけられて……

事実確認結果を伝えたら苦情になる図

《事例概要》
事実確認 ▶ 申出人の誤解であると判明 ▶ 申出人に伝える ▶ 申出人は怒って理不尽なことを要求

  • 【クレーム事例:008】の続きです。
  • 折衝担当者となった係長Cが、事実確認を終えて申出人Xに電話をします。
  • 係長Cは次のように事実確認の結果を伝えます。
    1. 販売員Pの母親Yへ説明が冷たく不親切であったという件は誤解
      • お電話でのお母様からのご質問に対して、販売員がお母様にご理解いただけるように説明できなかったことは事実です。
      • 機械の取扱いのご質問であったため、ご高齢のお母さまに電話でご説明するのは難しいと販売員は考え、ご自宅に訪問してのご説明をご提案しています。
      • しかし、その日時の調整で、お母さまが即日午前中に訪問することを求められたのですが、あいにく販売員は午前中に他のお客様とのお約束があり、同日の午後、もしくは日を改めての訪問をご提案差し上げたのですが、お母さまがご立腹されてお話を続けることができなくなったとのことです。
    2. 販売員Pが母親Yを認知症呼ばわりしたと言う件は誤解
      • お母様がご自身を「認知症の傾向があるかも」とおっしゃられ、販売員は「そんなことは無いと思います。」と申し上げ、続けて「検査か何かを受けられたのですか。」と確認させていただきました。お母さまはその確認を不愉快にお感じになったご様子です。「認知症」という言葉はお母さまから言われた言葉でした。
  • 申出人Xは、しばらく沈黙して係長Cの説明を聞きます。そして係長の説明が終わったところで一言いいます。「それだけか?」
  • 係長Cは答えます。「それだけかとおっしゃられても……」
  • 係長Cは申出人Xがそれ以外の何を求めているのか判断がつかなくなって迷います。謝罪の言葉か?誠意を見せろ的な金銭の要求か?しかし、事実確認の結果、謝罪するほど不適切な対応は無かった。むしろ母親Yの言動に問題があったと言えます。是々非々で行くのなら、母親Yの言動の問題点を申出人Xに説明するのが正解なのでしょうか?それは、どう考えても喧嘩を売るようなもの。それは出来ない。説明できることはここまでだ。と係長Cは考えます。
  • 「私どもが事実確認をした結果は以上でございます。」「で、それだけか?と聞いているんだ。」「それだけと言えばそれだけでございます。」「馬鹿かお前は!この件、会社としてどう落とし前をつけてくれるのか聞いてるんだ。お前は……そんなことも分からないで俺に電話をしてきたのか!お前みたいな馬鹿と話をしていても時間の無駄だ。まだ、昨日の電話に出た嘘つき女の方がましだ。だから、最初から言っているんだ俺は!所長を出せ!下っ端じゃあ話にならない。」
  • 係長Cは、いまさら所長に電話を回すことはできません。ここは謝罪だ。足りなかったのは謝罪なんだ。と思います。でも何を謝罪するんだ??
  • 係長Cは一挙に謝罪モードに入ります。「申し訳ありません。私の説明が不適切であったようで、大変不愉快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません。本来であれば販売員がお母様への説明が電話であっても十分にできれば良かったものの、販売員の力不足でお母様に不愉快な思いをさせてしまいました。認知症という言葉につきましてても、販売員の配慮が不足していたと思っております。誠に申し訳ありませんでした。」
  • 急に謝罪を始めた係長Cに多少とまどいながら申出人Xは言います。「だから、どうすんだって聞いてんだよ。誠に申し訳ないんだったら、それだけのことをしろよ。お前と話していても時間の無駄なんだよ。俺は何もお前を困らせたいんじゃないんだ。お前に文句なんか言いたくもねえ。もういいから、お前、所長に代われ!お前はもういいよ。お前も俺と話してんの厭だろう。早く代われ!」
  • 係長Cはどうしたら良いのか分からなくなります。とは言え、絶対に所長Eに代わることはできません。そんなことをしたら、所長Eだけでなく課長Bからも受電者Aからも「役立たず」と心の中で舌打ちされるに決まっています。追い詰められた係長Cはついに聞いてしまいます。
  • 「私としては出来る限りのお詫びをいたしました。そのうえでX様は何をお望みなのでしょうか?」
  • 申出人Xの怒りは沸点を越えます。「それはお前が考えることだろう!考えられないなら言うが、お前、俺の母親がどんなに辛い思いをしたか分かってんのか!お前んとこの販売員がなんと言い訳しているかなんて知ったこっちゃない。お客がお前の販売員の対応で傷ついたっていう事実があるんだ。違うのか?俺が噓を言っているとでも言うのか?」「とんでもございません。おっしゃる通りです。誠に申し訳ありません。」「謝れって言ってんじゃないんだ。わかるか?お前の会社の販売員の教育に欠陥があるってことだ。そうだろう。その責任者である所長が詫びるのは当然だろう。その上でだ。お前の会社の販売員の教育体制のどこに欠陥があってどこをいつまでに改善するのか説明しろ。まず、詫びだ。いますぐ、この電話を営業所長に代われ、営業所長の考えを示せ。その内容によっちゃあ、お前の会社がどんなひどい会社か言いふらすぞ。俺はネットをやってないが、俺の友達にはそんな奴がたくさんいる。どうなるか知らねえぞ。どうすんだよお前。東京の本社にも報告するんだよな。本社から詫びをもらった方がいいのか?……」
  • 申出人Xは、怒りに任せて支離滅裂に思いつくことを思いつく限り話し続けて止まりません。要求がどんどん膨らみます。

《適切な対応》
会社がとる対応は折衝担当者が決める ▶ 申出人の面子の立つストーリーで解決する

事実確認を終えたら折衝担当者が対応を決める。申出人に聞くのではない。

  • 「【実践編】即効テクニック/Stege⑦対応策を決定する/テクニック⑦-1」を思い出して下さい。どうすべきかは折衝担当者が決めるのです。所長や社長が決めるのではありません。所長や社長はクレーム対応の素人です。まして現場の情報を直接把握していません。必要であれば、折衝担当者が決めて所長や社長の了解を得れば良いのです。多くの場合は、その判断は現場の折衝担当者に任されています。そうしなければ臨機応変な対応ができず、危険だからです。
  • 係長Cは申出人Xに事実確認結果を伝える前に「どうすべきか」を決めておく必要があります。「どうしたいですか?」などと申出人に聞いてはいけません。それを決めるは折衝担当者であって申出人ではないからです。
  • 申出人に「どうすべきか」を先に言わせてしまうと、折衝のアンカーをそこに打たれてしまい、そこから折衝を開始することになりかねません。申出人は、なるべく自分に有利な地点にアンカーを打とうとします。本心では思っていないほど過剰な要求を口に出させてしまいます。過剰な要求をすればクレーマーです。本当はクレーマーでない顧客をクレーマーにしてしまうのです。一旦過剰な要求を口に出させてしまうと、申出人は理由なく拳を下せなくなって、どんどんクレーマー化してしまいます。まさに、折衝担当者がクレーマーを作ってしまうことになるのです。絶対に避けなければなりません。

「どうすべきか」を期待メリットと獲得メリットを踏まえて合理的に決める

  • 「どうすべきか」は「【実践編】即効テクニック/Statge⑦対応策を決定する/テクニック⑦-2」で考えることになります。複雑なケースの場合は「【活用編】クレーマー分析シート」をダウンロードして使て下さい。本件は分析シートを使うほど複雑ではありません。
  • 適切な期待メリットは次の二つです。
    • 販売員Pは契約者である母親Yの疑問を解消するために誠実に対応する。
    • 販売員Pは高齢の母親Yを認知症扱いしない。
  • そして事実確認の結果、本当の獲得メリットは期待メリットに準じたものでした。
  • 申出人Xが思っていた獲得メリットの低さは誤解であって、そこから生じた不満も誤解に基づくもので、合理的は不満はほとんどないことが分かりました。
  • ではどんな対応が望ましいのでしょう?申出人Yに「あなたの誤解です。こっちはいい迷惑です。」と言えば良いのでしょうか?とんでもありません。そんなことを言って円満に解決するはずがありません。

申出人の面子が立つ解決ストーリを作る

  • そこで「【実践編】即効テクニック/Stage⑨円満に解決する/テクニック⑨-2」を思い出して下さい。申出人の面子が立つ花道を整えるのです。ここで【クレーム事例:007】を思い出して下さい。そこで使った「キャラ付け」が生きてくるのです。やり方は「【実践編】即効テクニック/Stage⑤相手にキャラを付ける」で解説しています。そこで作った申出人Xのキャラを思い出して下さい。受電者Aが次の4つのキャラを付けを行っていました。これを引き継ぎます。
    • 母親思いの心優しい人
    • 一つの事を決めたら、ああだこうだと迷わない気持ちの良い人
    • 筋を通して道理を話せば分かってくれる道理の分かる人
    • 小さなことにこだわらない器の大きい人
  • ここで作っておきたいのが、申出人Yの面子が立つ花道です。つぎのようなストーリが浮かびます。
    • X様はお母さま思いの心優しい人なので、お母様のご不満を聞いて社員教育ができていないとの注意を販売店を管轄する営業所長にしようとされたのだと思います。
    • お母様のご不満は、販売員からの説明が分かりづらいことにストレスを感じられ、さらに販売員の訪問提案日時がお母様の予定となかなか合わなかったことで簿不満がピークに達してしまったこと。とはいえ、機械操作のご説明、機械を目の前にしてこのボタンを…という説明であれば分かりやすいのですが、電話だけの説明ではどうしても無理がありました。この点ご理解ください。
    • 販売員は訪問でのご説明を提案させていただのですが、残念ながら訪問の日時がお母様と販売員との間でスムーズに決まらずお母様にご迷惑をかけてしまいました。ただ、販売員はたくさんのお客様とお約束をしていて、すぐに今からというわけには行かなかったこと、どうかご理解ください。
    • お母様がお電話を切られてしまって、販売員はすぐに折り返しのお電話をすることに躊躇してしまい、あたらめてすぐに対応のご提案ができなかったこと、お詫びいたします。お母さまを不満なお気持ちのままにしてしまい、X様がそれをお聞きになった。それを聞かれたX様のお気持ち良く分かります。お母さまにお優しいX様が私どもの販売員を許せないと思われたのは当然です。
    • お母様がご不満を感じてお電話を切られた後に、私どもが機敏な対応をしていれば、お母様のご不満もすぐに解消できたのかも知れません。X様がお母様からのご不満をお聞きになることもなかったと思います。誠に申し訳ありませんでした。
    • つきましては、この後、すみやかに販売員Pと私Cが二人でご自宅に訪問させていただき、お母様に十分な対応ができなかったお詫びをさせていただいたうえで、実際に商品を手に取って使い方のご説明をさせていただきたいのですが、ご都合いかがでしょうか?

ストーリに基づいて解決策を提示する

  • このストーリーであれば、申出人Xも面子が潰れません。お詫びの範囲の限定も適切です。会社としても誠実な対応となります。
  • このストーリーを準備したうえで、係長Cは申出人Xにお電話をして、円満な解決に向かう折衝を行えば良かったのです。
  • このように解決策を提示すれば、ほとんどの場合円満な解決に繋がります。ここで円満に折衝が終れば、申出人Xは「謝罪金を払え」とか「商品代金をゼロにしろ」とか「お宅の社内教育マニュアルのどこに欠陥があってそれをどう直すか説明してそれをHPで公表しろ」と言った理不尽な要求をすることはないので、クレーマーではなく大切な顧客のままです。クレーマー対応で一番の極意は、大切な顧客をクレーマーにしないということです。
  • 申出人Xがこの解決策の提示に了解した場合や、まんざらでもないと言う反応を示した場合はすかさず畳みかけます。それが「【実践編】即効テクニック/Stage⑨円満に解決する/テクニック⑨-2」です。明らかにトーンをあげて「合意して良かった」と申出人Xに実感させます。これが折衝のクロージングです。しっかりと、力強く畳みかけます。申出人Xは話を蒸し返すことができなくなります。本当に「合意して良かった」と思うようになり、時には「あなたの対応は良かった。良い会社だ。」と、お褒めの言葉を頂くこともあります。
  • しかし、場合によってはそれでも理不尽な要求を突き付けて、申出人がクレーマーになってしまうことがあります。クレーマーになってしまっても、冷静になっていただき大切な顧客に戻っていただくように折衝を続けます。それでもクレーマーであり続ける申出人には、理不尽な要求を拒絶し、折衝の決裂も覚悟しなければなりません。
  • ただ、折衝を決裂される場合にも決裂のさせ方があります。そのことは「【実践編】即効テクニック/Stage⑨円満に解決する/テクニック⑨-1」で詳しく説明しているので確認して下さい。ただ、本件はそこまでいかなくても良いケースでした。