【クレーム事例:004】お前じゃだめだ。上の者に代われ!と怒鳴られて……

《事例概要》
手続き案内不十分 ▶ 特別な対応を要求 ▶ 断ると「上司に代われ!」と怒鳴る

  • 60歳代の男性のお客様が、事務所の窓口で来られて契約内容の変更手続をします。
  • その手続きには実印と印鑑証明書が必要です。お客様は印鑑証明書を持ってこられたのですが1年前に発行されたものでした。社内のルールでは発行日から半年以内のものでなければ手続きが出来ません。窓口で応対した女性事務員がその事をご案内したところ、非常に立腹されます。
  • 必要な手続きは先週電話で確認して、印鑑証明書が必要と言われたが発行日のことは言われなかった。「お前のところのミスだろう!ちゃんと手続きをしろ!」と声を荒げます。女性事務員は気圧されます。
  • 男性は続けて言います。「だいたい印鑑証明書の有効期限が半年しかないって何処の法律に書かれてんだ?見せてみろ!」
  • 女性事務員は法的な根拠を示すことができません。それは社内ルールなのです。言葉に詰まる女性事務員に男性はたたみかけます。
  • 「あんた、そんなことも知らないで俺を門前払いにしようとしたのか?勉強不足、知識不足、礼儀知らず、非常識って事だ。最低だ。よくこんなところで働けるな。あんた、どこの学校でてんだ?」
  • 女性事務員が言いよどんでいると、男性は事務所中に響く声で言い放ちます。「もういい、あんたの学校なんてどうでもいい、どうせちゃんとした教育を受けていないんだろう。聞く価値もない。ちょっと話せばすぐにわかるんだ。お前じゃだめだ。話が通じる上の者に代われ!」
  • 女性事務員は動揺します。ただならぬ空気を察して、上司ではありませんが男性係長がサポートに入ります。申出人である男性はその係長にすかさず言います。「お前は上司か?」
  • 男性係長は「上司ではありませんが、この窓口でのお客様への対応を任されております。お話を聞かせて下さい。」と言いますが、男性は言います。「俺は、上司を出せって言っているんだ。お前みたいな下っ端じゃ話にならない。ここの責任者を出せ。待たせるな!」と怒鳴り続けるばかりで、男性係長と話をしようとしません。

《適切な対応》
申出人の不満を特定 ▶ 合理的な対応を決める ▶ 譲らない・期待を持たせない

申出人(男性)の会社への不満を特定する

  • せっかく窓口まで来たのに必要な手続きができず出直しとなれば、それはもちろん不満ですが、その不満は何に対する不満なのでしょうか?
  • 会社に対する不満とすれば、どのような不満なのでしょう?会社の事前案内が不十分でミスリードされた。ということでしょうか?
  • この点は、そうかも知れません、そうでないかも知れません。とりあえず、最悪の事態を想定するとし、申出人からの電話による事前照会に対して、事務所の誰かがミスリードをしたと仮定しましょう。

申出人の会社への要求を特定する

  • 申出人は次のA,B二つの要求をしていて、後半はBの要求が全面に出ています。
    • 《要求A》発行日が一年前の印鑑証明書を有効にして、その場で契約変更の手続きを進めて欲しい。
    • 《要求B》折衝担当者を窓口の女性事務員や男性係長ではなく、もっと上席の責任者に代えろ。

要求の合理性を検討する

  • 《要求A》について考えてみます。
    • 結論から言えば、会社の事前案内が不十分であったとしても申出人の要求には合理性がありません。
    • 厳密にいえば印鑑証明書には有効期限とうものがそもそもありません。発行した時のことを証明しているだけです。
    • 常識的に考えて50年前の印鑑証明書を持ち出しても証明力がないという事は誰もが納得するところです。では、どれぐらい前まで証明力を認めて良いのか?と言えば、当日が発行日のものだけという考え方もあります。でもそれは、現実的でありません。取引内容によって3か月以内なら良いとか、半年以内なら良いと言うように会社ごとに決めます。このケースの場合は半年という社内ルールです。妥当なところです。1年前まで認めろというのは身勝手な要求です。
    • 会社の事前案内が不十分であったかどうかは分かりませんが、たとえ不十分であっても、印鑑証明書の有効期間は長くて半年というのが常識だと考えます。
  • 《要求B》について考えてみます。
    • 女性事務員の対応も男性係長の対応も、何の問題もないので申出人の要求に合理性がないことは明らかです。

どうすべきかを決める

  • 申出人の要求はA、Bいずれも断わります。
  • ただし、事前の電話でのご案内が不十分であった可能性があり、お客様が事務所まで無駄足を踏ませてしまったことは事実です。それなりのお詫びはあっても良いところです。500円~1,000円程度の価値を持つ粗品(カレンダー、タオル)や、割引券などをお渡ししてお詫びするというのが妥当と決めます。
  • どうすべきかの判断を、折衝担当者ができるだけその場で行えるようにしておくことは重要です。ある程度の粗品を渡すというような小さな権限を折衝担当者に持たせていない職場は臨機応変な対応ができないため、クレーマーの餌食になる危険があります。

折衝担当者のメンタルを守る目的以外の理由では、折衝担当者を変えない

  • 申出人の「上司に代われ」の要求が理不尽であればその要求には応えません。しかし、申出人が折衝担当者を誹謗中傷し折衝担当者のメンタルが危険に晒されているのであれば、躊躇なく担当を変えます。申出人の要望に応じて担当が代わるのではなく、会社の社員を守るために担当を変えるのです。
  • 女性が男性から罵声を浴びる状況は異常であって、女性にとっては恐怖でしかありません。今回のケースでは誹謗中傷まで入っています。申出人の要望とは関係なく、すぐに担当を代えて女性のメンタルを守ります。代わるのは上司ではなく、女性の同僚もしくは部下の男性社員が理想です。人が居なくて上司に代わるというのであれば仕方がありません。何よりも守らなければならないのは、仲間である社員・担当者のメンタルです。
  • どんなに誹謗中傷を浴びても、それは自分の人格に対してではなく、自分が演じている折衝担当者という役柄に対してだと割り切り、申出人が酷い誹謗中傷を言えば言うほどそれを記録に残して申出人に不利なポイントを稼いでいる気になっている担当者であれば、申出人が何を言っても担当者を代える必要はありません。

申出人に期待を持たせず、粗品を渡してお詫びをして、次の手続きをスムーズに行う相談をはじめる

  • 一番避けなければならいないことは、申出人にあらぬ期待を持たせることです。騒げば特別な対応をしてもらえるんじゃないか?という期待から「上司に代われ」と言い続けているのです。
  • 上司に代わる様子が全くない。ゴネても特別な対応をしてもらえる様子が全くない。ただ、礼儀正しく、「ご足労をおかけしてしまって申し訳ない」とだけ詫びつづけて、お詫びの印の粗品を準備している。そして、改めて手続きを取る際にスムーズに事が運ぶような配慮についての相談を始めている。例えば「市役所は何時まで空いていて、この事務所は何時まで空いています。私は水曜日と金曜日以外は急な用事が発生しなければこの事務所におりますので、私が居るときでしたらまた一からお話いただかなくてもスムーズに手続きがとれます。ご予定が決まっていれば、私も〇〇様とのお約束としての予定を入れさせていただきますが、どういたしましょう。」というような前向きな話をするのです。
  • 多くの申出人は、あらぬ期待を持たない限り、過剰な要求を収めるものです。