【クレーム事例:003】電話応対の記録を文書にして提出しろと言われて……

複数の部署と接触する図

《事例概要》
無理な要求 ▶ 複数部署に照会 ▶ 回答の差を咎める ▶ 電話対応の記録文書を要求

  • 申出人の主張は「高齢の母親が俺に無断で生命保険に入るはずがない。だいたい母親は貯金が好きで貯金にならない保険に入るはずがない。お前んとこの営業員が高齢者を騙したのだ。契約を取り消して払った保険料を全部返せ。月々4,500円の保険料だら100万円ぐらいになるはずだ。」です。
  • 事実確認の結果、現在78歳の契約者は19年前の契約時には59歳であり、入院保障をつけた掛け捨ての保険に加入するのは不自然ではありません。担当の営業職は7年前に退職しており3年前に病気で亡くなていてるの契約当時の状況を確認することができませんが、契約書は本人の直筆。契約時の意向確認書類も整っており、手続き上の問題を確認することができません。
  • ご本人は、この話は息子に任せているので息子と話して欲しいの一点張りです。申出人は契約者の息子で50代の男性です。
  • 申出人は、現場の営業所の管理者、サービスセンターのオペレーター、お客様相談室の相談員、と複数と話しながら、「お前の会社は高齢者を騙している悪徳企業だ。」と罵ります。
  • そして「営業所ではすぐに手続きを取ると言ったぞ!」「サービスセンターでは高齢者の契約の際には子ども世代の親族の同意を得なければ契約できないはずだと言ったぞ!」「相談室では一週間で事実確認を終えると言ったぞ!」と言います。他の部署がどんな約束をしているのか分からず、それぞれの部署の折衝担当者は対応に迷います。そして、それぞれの電話の応対がいずれも一時間を超えます。
  • あげく、「お前の会社はどいつもこいつも噓を言う。信じられない。お前とは今月に入って3回目の電話だ。これまでの会話はサービス向上のために録音していると言ってたな。今月に入ってからの録音した音声を一文字もたがわずに文書にして送れ。もうこれ以上、言った言わないの話はこりごりだ。文書にして明日中に速達で俺の自宅に送れ。土日にしっかり読ませてもらう。」と相談室の相談員に言います。
  • 相談室の相談員は、情報提供を拒むことで折衝が更に厳しい状況になることを恐れて申出人の要求を受け入れ、膨大な時間のかかる録音データの文字起こしをはじめます。

《適切な対応》
折衝窓口を一本化 ▶ 事実を確認し会社の対応を決める ▶ 理不尽な要求には応えない

折衝の窓口を一本化する

  • このケースは申出人が会社の3つの部署に同時に揺さぶりをかけているため、申出人が言うことが本当かどうかすぐに判断できずに折衝者を混乱させています。
  • まず、折衝の窓口を一本化して折衝担当者を一人にしなければなりません。営業所の管理者か、お客様相談室の相談員のどちらかに折衝担当者を決めます。申出人には折衝担当者が「今後、お客様とのお話は私がうかがいます。」と宣言をし、申出人がどこに電話しても折衝担当者に電話が転送される体制を徹底します。

真実を見極める

  • 申出人の言うことは本当なんだろうか?契約締結時に保険商品の説明は十分に行われたのだろうか?という事を調べることになるのですが、肝心の当事者の話を聞くことができません。この場合は推定するしかありません。
  • 退職した営業員が過去に高齢者への商品説明が不十分であったというトラブルを発生させたことがなかったか?申出人の母親である契約者は、これまで貯蓄にならない保険に加入したことがなかったのか?契約書の記載は契約者の直筆で間違いないか?その筆跡に不自然な点はないか?意向確認書類の署名も問題がないか?できるだけ公平な視点で真実を見極める努力をします。
  • このケースでは、契約時の契約者の年齢は59歳で高齢者とは言えません。営業員に過去に高齢者への商品説明が不十分であったというトラブルの記録はありません。契約書の自署もしっかりしており不自然な点はありません。また、このようなケースに備える「意向確認書」の記述も適正です。一方、申出人の主張にはそれを裏付けるものがありません。申出人の主張だけです。
  • 以上を踏まえて、断定はできないものの、申出人の言うことが本当ではない可能性が高いと判断します。申出人の不満に合理性がない可能性が高いという事です。

会社の対応を決める

  • 合理性がない可能性が高い不満に基づく要望も合理性がない可能性が高いと考えます。したがって、何か新たな情報が得られて事実の推定が変わらない限り、「契約を取り消して、すでに支払わられた保険料を返金しろ」という申出人の要求には応じないとと決めます。
  • 申出人が立腹されて、高齢の母親に契約を解約させることが起きても仕方がないと覚悟します。

折衝過程での細かい注文にも合理性がなければ応じない

  • 申出人は録音データの文字起こしを要求しています。しかしの注文には合理性がありません。自分が何を話したかは自分で覚えておくことで、忘れそうなら自分でメモを取れば良いのです。交渉相手に自分が何を言ったかまで文書で報告させるのは異常です。このような要求をしている時点で申出人は「顧客」ではなく「クレーマー」です。
  • 申出人の要望は、それが可能ならば応えるというものではありません。翌日までに録音データの文字起こしをやろうと思えばできないことではありません。しかし、それが筋の通らないことであれば、やってはいけません。
  • 多くの折衝担当者が、申出人に要望を拒否すれば激怒されて折衝が難しくなることを恐れる傾向があります。穏便に折衝を終わらせたい。相手がそれでおとなしくなるのならやればいい。という気持ちは捨てて下さい。
  • 申出人は録音データの文字起こしを要求した点では「クレーマ」なので、その点で満足させてはいけないのです。

本題でない過剰な要求は、本題の話をして消してしまう

  • 録音データの文字起こしについてはあっさりと断ります。理由をくどくど言う必要はありません。「そのようなことには応じかねます。」だけで良いです。
  • そして間を空けずに本題の話をはじまめす。「今回の問題は、ご契約時のお母さまのご意向がどうであったかという事です。お客様は、19年前にお母さまがこのような保険とは理解せずに契約していたとおっしゃられています。しかし、私どもの調査ではお母さまが保険の内容をしっかりと理解していたと判断せざる終えません。従いまして、お客様のおしゃるように遡って契約を取り消すということは出来ません。」
  • ここで申出人が本題の話で応じてくれば、録音データの文字起こしの話が申出人の頭の中から薄れます。
  • それでも録音データの文字起こしに申出人がこだわり続けた場合でも、「そのようなことをする理由がありません。」と断り続けます。申出人が激怒してもかまいません。良くない行動をする申出人を満足させれば、さらに良くない行動を繰り返します。録音データの文字起こしの要求は合理性のないクレームであり良くない行動なので、礼儀正しくほぼ黙殺して話題を変えます。